研究部門の業績

先端ネットワーク環境研究部門
Advanced Networked Environment Division


1. 部門スタッフ

教授 村田正幸
1982年3月 大阪大学基礎工学部情報工学科卒業、1984年3月 大阪大学大学院基礎工学研究科博士前期課程物理系専攻修了。同年4月 日本アイ・ビー・エム株式会社入社、同東京基礎研究所を経て、1987年9月 大阪大学大型計算機センター助手、1989年2月 大阪大学基礎工学部助手、1991年8月 大阪大学基礎工学部講師、1992年12月 大阪大学基礎工学部(改組により、現在、大阪大学大学院基礎工学研究科)助教授、1999年4月 大阪大学大学院基礎工学研究科教授、2000年4月より、大阪大学サイバーメディアセンター先端ネットワーク環境研究部門教授。大阪大学大学院情報科学研究科の発足に伴い、2002年4月より、同研究科兼任。IEEE、ACM、The Internet Society、SPIE、電子情報通信学会、情報処理学会各会員。1988年工学博士(大阪大学)。

助教授 長谷川剛
1995年3月 大阪大学基礎工学部情報工学科退学。1997年3月 大阪大学大学院基礎工学研究科博士前期課程修了。1997年6月 大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程退学。同年7月 大阪大学経済学部助手。1998年4月 大阪大学大学院経済学研究科助手。2000年7月 大阪大学サイバーメディアセンター先端ネットワーク環境研究部門助手。2002年1月大阪大学サイバーメディアセンター助教授。大阪大学大学院情報科学研究科の発足に伴い、2002年4月より、同研究科兼任。現在に至る。電子情報通信学会、The Internet Society各会員。2000年博士(工学)。

2. 教育および教育支援業績

[1] 全学共通教育機構において開講されている以下の科目を分担した。
  (1) 情報処理教育科目「情報倫理と社会」
  (2) 基礎セミナー「情報通信のしくみ」
  (以上、村田)
[2] 基礎工学部情報科学科において開講されている以下の科目を担当した。
  (1) プログラミングB(学部)
  (以上、村田)
  (2) 情報ネットワーク(学部)
  (3) プログラミングC(学部)
  (4) 基礎工学PBL(情報科学)(学部)
  (以上、長谷川)
[3] 大学院情報科学研究科情報ネットワーク学専攻において開講されている以下の科目を担当した。
  (1) ギガビットネットワーク
  (2) 超高速ネットワーク構成論
  (以上、村田、長谷川)
  (3) 情報ネットワーク学演習II
  (以上、長谷川)
[4] 基礎工学部情報工学科PBL委員会委員長として、PBL科目(1年生、2年生)の企画運営に携わった。(村田)
[5] AEARU 大阪大学CS分野連絡委員(村田)
[6] 文部科学省 21世紀COEプログラム 「ネットワーク共生環境を築く情報技術の創出」の一環として、大学院情報科学研究科情報ネットワーク学専攻における演習科目「情報ネットワーク学演習I」の中で、ネットワークプロセッサ設計ラボ(NWPラボ)を推進した。(長谷川)

3. 研究概要

インターネットはもともとメール交換やファイル共有を目的として開発されてきたが、1990年代にWWW (World Wide Web)が発明され、インターネットに接続されたコンピュータ(エンドホストと呼ぶ)上に散在する情報の関連付けが可能になった。さらに、メディア処理技術やユーザインターフェース技術の進展に伴って、テキスト情報だけでなく、マルチメディア情報も扱えるようになり、現在のインターネット環境が整えられるようになった。
 インターネットに接続されているホスト数は現在、全世界で数億台に達するとも言われ、コンピュータの前にいながらにして世界中の情報が得られるようになっている。インターネットを支える通信技術は、エンドホストの間でパケットを誤りなく通信するために定められているTCP (Transmission Control Protocol)と、パケットを送信ホストから受信ホストまで、ネットワーク内のルータを経由しつつ送り届けるIP (Internet Protocol)が中心になっている。すなわち、ネットワーク内においてはIPがエンドホスト間の接続性(connectivity)を保証するだけであり、ベストエフォートネットワーク(エンドホスト間でやりとりされるパケットをできる限りの努力で配送する)と呼ばれているゆえんである。
 以下では、通信品質(QoS: Quality of Service)要求を満たすネットワーク、および、P2Pネットワークを紹介しつつ、現状のネットワークの問題点を考察する。

3.1  現状の情報ネットワークが抱える問題点

3.1.1 QoSを考慮したネットワークの問題点

ユーザのさまざまな通信品質(QoS: Quality of Service)要求を満たすような機構をネットワーク内に実現するには、それらの要求に対応できるようにネットワーク資源(回線、ルータバッファなど)を積極的に管理するしくみが必要になる。事実、情報のマルチメディア化に伴い、メディアごとに異なるQoSを満足させるための機構に関する研究が近年さかんに行われてきた。たとえば、あるエンドホストのペアの間で回線容量のうちの一部の通信容量(帯域と呼ぶ)を保証するためには、
が必要になる。これらによって、エンドホスト間に通信帯域が保証され、常に一定時間内に情報が届けられるようになり、品質の高い通信が実現できる。実際、上述のしくみはインターネットの標準化団体であるIETFにおいてIntServ (Integrated Services)ネットワークとして標準化され、将来のマルチメディアネットワークの基盤となることが期待された。しかし、IntServネットワークに対して以下の2つの問題がすぐに指摘されるようになった。
  1. スケーラビリティに関する問題:インターネットのように常に成長しているネットワークにおいては、システムの巨大化とともに処理量がどのように増加するかが問題となる。たとえば、ホスト数、あるいはユーザ数Nに対して処理量がN2のオーダで増加するようだと、早晩そのようなネットワークは破綻する。IntServの場合、シグナリングプロトコルに関する処理はエンドホスト間に存在するルータ数に比例して、また、各ルータにおけるパケットスケジューリングに関する処理はそのルータを通過するコネクション数(エンドホストペアの数)に比例して増大してしまう。
  2. 現行のネットワークからの移行(Deployment)に関する問題:IntServでは、世界中のすべてのルータがIntServ機構をサポートしていないと、QoS保証の論理が破綻する。新しいネットワークが優れたものであっても、現行からの移行シナリオがなければ受け入れられない。
IntServの反省に基づき考案されたのが、DiffServ (Differentiated Services)である。そこでは、QoS保証はあきらめ、QoSに関するコネクション間の差別化にとどめることにより、上述の2つの問題点は解決された。しかし、DiffServアーキテクチャについてもいくつかの問題点が指摘されており、広く利用されるには至っていない。
 ここでは、特に、上記2つのネットワークに共通する問題点として、以下の点を指摘しておきたい。IntServではQoS保証のために、送受信ホスト間のすべてのルータにおいてネットワーク資源を確保する。そのために、途中経路をあらかじめ決めておく必要があり、通信中にルータや回線の故障があるとそのしくみ自体が破綻する。これはDiffServにおいても共通するものである。特に、今後、モバイル通信技術が発展すると、たとえ故障が発生しなくとも、エンドホストの移動によって、エンドホスト間のネットワーク資源は半固定的に存在するという仮定自体が成立しなくなる。

3.1.2 P2Pネットワークの問題点

現状のネットワークが抱える別の問題を考察するために、次にP2P (Peer-to-Peer)ネットワークを紹介する。これまで、ネットワークサービスは、特定のサービスを提供するコンピュータ(サーバ)をネットワークに接続し、特定/不特定ユーザからの要求を受付け、処理を施した後、結果を返すというものであった(クライアントサーバモデルと呼ぶ)。これは、Webサービスについてもまったく同じである。特に最近までは、クライアント(ユーザ)は必要な時にモデムを使ってISP(インターネットサービスプロバイダ)経由でインターネットに接続するという形態をとり、クライアントとサーバの役割が固定されていたため、サービス提供の方法としてごく自然なものであったとも言える。
 しかし、Webシステムにおいては、Webサーバへの負荷集中により、サーバコンピュータの処理が極度に遅くなったり、果てはダウンしたりすることもある。そのため、サーバの並列化や分散化、プロキシキャッシュサーバ(遠方のWebサーバにある情報を一時的に保管する)の設置などによって負荷を分散する方法がとられるようになってきている。しかし、コスト面も含めてそのような対策には限界がある。特に、ADSLやFTTH などの導入でユーザがインターネットに常時接続するようになってトラヒックが増大していること、光通信技術の発展によって回線容量が増大する一方、サーバコンピュータの高速化には限界があること、などからサーバボトルネックは顕著になりつつある。
 このような背景の中、エンドホスト間の直接的な通信によってサービスを実現するP2Pネットワークが登場してきた。インターネットはもともとエンドホスト間の通信が原則であり、このようなことを強調すること自体、奇異に映るかもしれない。しかし、Webシステムの登場により、ネットワークはサーバ主体のものになった。P2Pネットワークを導入し、サーバ主体のWebシステムから脱却することによって、耐故障性やスケーラビリティを確保できること、サーバを介さない「中抜き」によってサーバやネットワークの初期導入コストや管理コストを削減できること、その結果、情報システムの運営者、管理者が不要になること、などが期待できる。また、サーバを介さず、ユーザがさまざまなコミュニティに属することができるようになるため、情報化時代における自律・分散・協調による主体的活動を促進できる。さらに、サーバの中抜きによる新しいビジネスモデルの創出も期待できる。
 クライアントサーバシステムでは、Webサーバにアクセスすれば情報があり、ファイルサーバにアクセスすればファイルがある。また、情報がない場合には検索サーバにアクセスすれば情報の所在を見つけることができる。一方、P2P ネットワークにおいては、サーバがないゆえに、情報が必要になったときに、その情報をネットワーク上のどのエンドホスト(P2Pではピアと呼ぶ)が所持しているかを発見する機構が必要になる。そのため、P2Pネットワークにおける情報資源の発見機構に関する研究が最近活発に行われている。以下に、2つの方法を紹介する。
  1. ピュア型P2P
    ピュア型P2Pでは、情報が必要になった場合、ネットワーク上のすべてのピアに対して問い合わせ(query)を行う。情報を所有しているピアは、そのことを問い合わせピアに対して通知する。いくつかのピアから通知があった場合、問い合わせを行ったピアは、最適なピアを選んでそのピアから情報を取得する。問い合わせはフラッディングにより行う。すなわち、各ピアは問い合わせに該当する情報を持たない場合、隣接するすべてのピアに問い合わせメッセージを受け渡す。問い合わせメッセージを受け渡す回数には上限(TTL: Time-to-Live)を設けておく。ピュア型では情報を維持するサーバが不要になり、Webシステムに比して耐故障性が確保されている。一方、問い合わせのフラッディングのために、スケーラビリティに欠ける。たとえば、TTL=10の場合、すべてのノードが6ピアに受け渡すとすると最悪610個オーダの問い合わせメッセージが発生する。
  2. ハイブリッド型P2P:
    スケーラビリティに欠けるシステムの解決策として通常とられるアプローチは、対象となるシステムを階層型にすることである。ハイブリッド型P2Pでは、情報自体はピアが持っているが、メタ情報(情報そのものの所在を示す情報)はサーバによって管理され、各ピアはサーバにメタ情報を登録する。その結果、ある情報を必要とするピアは、問い合わせ(query)をサーバに対して行えばよい。サーバが情報所有者を問い合わせピアに返した後、実際のデータ送受信が行われる。ハイブリッド型では、ピア数の増大に対するスケーラビリティが確保され、また、ピアはサーバに問い合わせればよいので探索が速い。しかし、Webシステムと同じように、負荷の一極集中が発生する。また、サーバの故障の可能性を考えると耐故障性に弱いと言える。
以上のように、現状では、スケーラビリティと耐故障性、性能は相反の関係にあり、最終的な解決策はまだ得られていないのが現状である。しかし、P2Pネットワークがもたらす影響は大きく、(1) 分散環境においてCPUやディスクを共有するためのGrid計算ネットワーク、(2) ネットワーク上での仮想的なコミュニティ(サイバーコミュニティ)、(3) さまざまなセンサを至るところに配置し、そのセンサ情報を利用するセンサネットワーク、(4) 無線通信機能を有するデバイス(PDAやパソコンなど)の間の通信を提供するアドホックネットワーク、などの基盤技術となることが期待されている。たとえば、以下のように現在、発展しつつあるさまざまな応用に対する基盤技術となることが期待されている。

3.2 将来のネットワークの方向性

以上2つの例で明らかなように、今後、ネットワークにおいて重要となるキーワードは、以下の3つであると考えられる。
  1. 拡張性(スケーラビリティ):インターネット利用人口の増加は言うまでもなく、センサ機器の増大、情報家電の普及など、インターネットに接続される情報機器端末の数は今後ますます増大する。また、それらの機器は当然、モバイル環境において利用されることを前提とする。その結果、ネットワーク資源の管理方法も当然変化せざるをえず、また、ルータ数やエンドホスト数、ユーザ数の増大に対応可能としておく必要がある。
  2. 多様性:ネットワーク技術はますます多様化している。無線LANやWCDMA 技術などによる無線回線、DSLやFTTH技術などのアクセス回線、ギガビットイーサなどのLAN、光通信技術によるバックボーン回線など、さまざまな高速化技術が開発されつつある。その結果、過去たびたび提唱がなされてきたような単一のネットワークアーキテクチャによる統合ネットワークはもはや存在しえず、その結果、安定した通信回線をエンド間で提供するような通信形態の実現もあり得ない。また、情報機器・デバイスの多様性からネットワークに流入するトラヒックの特性はますます多様化する。
  3. 移動性:モバイル環境においては、利用者自身の移動を考慮しなければならない。そのためには、柔軟なネットワーク制御が必要になる。さらに、通信相手となる他の利用者にとっては、ネットワーク資源そのものの移動や生成・消滅までもが頻繁に発生することを意味する。また、P2Pネットワークのように情報資源提供者がサーバではなく、ユーザの場合、コンピュータをネットワークから容易に切り離すことも考えられる。さらにモバイル環境では、ルータ自体が移動する可能性がある。
以上の3つのキーワードを前提とした場合、「すべてのユーザの通信要求を満たす」単一のネットワークアーキテクチャはもはや存在しえず、それよりも、エンドホストの適応性(adaptability)向上を根幹とし、ネットワークはそのような適応性をサポートするための機構を提供することを基本原理としていかねばならない。インターネットはもともと分散指向であるが、例えば、IPにおける経路制御においてもルータ間の協調は必要であり、それがネットワークの耐故障性を弱めることにつながっている。ここでの意図は、分散処理指向をさらに推し進め、しかし、それによって損なわれるであろう資源利用の効率性の向上については、エンドホストの現状のネットワークの状態に対する適応性によって補償しようとするものである。その結果、今後も開発されていくであろう多様な通信技術に対応しながら、スケーラブルでかつ耐故障性に富んだネットワークが構築され、ユーザの多様な要求に対するサービスが提供できるようになると考えられる。そのためには、エンドホストの自律性がますます要求されるようになり、それを前提として、ネットワーク全体の調和的な秩序が必要となる。これは適応複雑系において議論されているところであり、それらの知見を活かしていく可能性が見えてくる。
 インターネットにおいては“End-to-End Principle”が繰り返し強調されてきた。これは、
というものである。極論すれば、「通信機能はできるだけエンドノードにおいて実現し、ネットワークはビットを運ぶことに徹する」ということになる。この原則は“KISS: Keep it Simple、 Stupid”とも呼ばれており、上述のネットワークは、インターネットの原点に戻り、それを一層推し進めようというものである。

3.3 複雑系としてのインターネットとその制御

ネットワークの価値を示す有名な法則として “Metcalf's law”がある。“The value of a network increases exponentially with the number of nodes.” すなわち、ネットワークの価値はノード数(あるいは、ユーザ数)に対して指数的に増加するというものである。すべてのユーザが直接的に通信できる場合、Nをユーザ数とすれば、ネットワークの価値V(N)~N²ということになる。しかし、Webシステムのクライアント/サーバモデルによって、この法則は崩れつつあった。その方向性を再び変えようとしているのが、P2Pネットワークである。ところが、P2Pネットワークにおいても、そのピアの接続数を観察するとパワー則が観察され、複雑系の様相を呈している。このような現象の原因を解明できれば、耐故障性と最適性や最適解への収束速度との関係が明らかにできるであろう。特に重要な点は、インターネットは他の複雑系と異なり、制御可能なものであるという点である。すなわち、インターネット自体が複雑系に関する巨大な実験場と見ることもでき、本研究テーマで得られた知見を他の複雑系に関する研究にフィードバックすることも将来的には可能であると考えている。

3.4 今後のネットワーク研究の方向性

以上、まとめると以下のようになる。まず、エンドホストのネットワーク適応性を得ようとすれば、ネットワークの状態を知るための方法としてネットワーク計測技術が根幹となり、計測結果に基づいたエンドホストの制御が必要になる。一方、ネットワークは、自律的分散的な制御を行うことが必須となる。このような研究の方向性は、バックボーンのインフラストラクチャとなるフォトニックネットワークにおいても例外ではない。
 本研究グループでは、以上の考察のもと、次章において述べるような研究テーマを推進している。

4. 2003年度研究業績

本年度は以下の研究テーマについて、研究成果を得た。

1)適応型QoSアーキテクチャに関する研究
適応型QoSアーキテクチャ構築のための要素技術として以下に関する研究を行った。
2)高速トランスポートアーキテクチャに関する研究
バックボーンだけでなく、アクセスネットワーク、さらにはエンドシステムまでを考慮したうえで、高速データトランスポートを実現するために、以下の研究を行った。
3)次世代ルーティングアーキテクチャ
IPv6 ネットワークにおけるルーティング機構のひとつであるエニーキャスト通信実現のためのプロトコル設計と実装を、NEC との共同研究により行った。

4)ネットワークにおけるフィードバックメカニズムの解明に関する研究
制御理論にもとづくリアルタイム系および非リアルタイム系輻輳制御の混在環境におけるコネクションの振る舞いに関する研究を行った。

5)モバイルインターネットアーキテクチャに関する研究
モバイルインターネットアーキテクチャ、特に、センサネットワークにおける情報収集のための機構に関して以下の研究を行った。
6)モバイルアドホックネットワークアーキテクチャに関する研究
モバイルアドホックネットワークアーキテクチャ構築のために以下に関する研究を行った。
7)フォトニックネットワークアーキテクチャに関する研究
フォトニックネットワークアーキテクチャに関して以下の研究を行った。
 また、フォトニックパケットスイッチアーキテクチャに関する研究として、ファイバ遅延線を用いた光バッファのためのパケットスケジューリングに関する研究を行った。
 さらに次世代光ネットワークアーキテクチャとして提案しているPhotonicGrid構築のために、λコンピューティング環境における分散計算のためのメモリアクセス手法に関する研究を行った。

8)ネットワークのモデル化と制御への適用手法に関する研究
ネットワークのモデル化と制御への適用について、以下の研究を行った。

4.1 適応型QoSアーキテクチャに関する研究

ADSL、CATV、FTTHなど広帯域アクセス回線の普及、WDM技術によるバックボーンネットワークの広帯域化などネットワークインフラストラクチャの整備が着実に進められている一方で、ネットワークは未だベストエフォートサービスを提供するのみである。ネットワークレベルのQoS(サービス品質)を保証、制御することのできるIntServ、DiffServが現実に利用可能になるまでは相当の時間がかかることが予想され、高度化を続けるマルチメディアアプリケーションが必要とするQoSを満足するためには、ネットワークの負荷状態の変化やそれにともなう通信品質の変動、また、個々の利用者の多様な要求に柔軟に適応することのできる新しいQoSアーキテクチャが必要不可欠である。本研究テーマでは、ベストエフォートネットワークを前提に、ネットワークの負荷状態、利用者のシステム環境、アプリケーションの状態に応じて、アプリケーションレベルのQoSを制御、保証するためのQoSアーキテクチャの確立を目指す。

4.1.1 スケーラブルなP2Pメディアストリーミング機構

P2P(Peer-to-Peer)はこれまでのサーバ-クライアント型アーキテクチャの抱えるスケーラビリティの欠如、システムの脆弱性といった問題を解決することのできる新しい通信パラダイムである。動画像や音声などのメディアストリーミング配信においても、P2Pアーキテクチャを導入することにより、利用者数、コンテンツ数、ネットワーク規模に対して拡張性を有し、また、ネットワークの負荷変動、メディアへの需要の変化、利用者の分布の変化などへの適応性があり、さらに、リンクやホスト、メディアデータの障害に対する耐性を獲得することができると考えられる。しかしながら一方で、P2Pネットワークを構成するピアは利用者のエンドシステムにすぎず、また、個々の利用者は自身の興味や行動規律に則り他とは無関係に振る舞うため、高品質なメディアデータを定常的に視聴し続けるためには、なんらかの制御機構が必要となる。
 本研究においては、P2Pファイル共有システムを基本に、データの検索、取得における時間制約や参照順を考慮した、P2Pメディアストリーミングのための、メディアのブロック分割、スケーラブルなブロック検索手法、途切れのないメディア再生のためのブロック取得先決定アルゴリズムを提案している。さらに、人気のないメディアデータがP2Pネットワークから消失し、視聴が不能になることを避けるため、新たな制御メッセージを交換することなくメディアに対する需要と供給を推定し、バランスを考慮してキャッシュの置き換えを行うキャッシングアルゴリズムを提案している。シミュレーションによる評価の結果、100台のピアからなるネットワークにおいて、提案手法により、従来のフラッディングによる検索と比較して検索メッセージ量を1/6に抑えるとともに、人気の度合いによらず途切れの少ないメディア視聴が可能であることを示した。


[関連発表論文]
(1) Masahiro Sasabe, Yoshiaki Taniguchi, Naoki Wakamiya, Masayuki Murata, and Hideo Miyahara, “Proxy caching mechanisms with quality adjustment for video streaming services,” IEICE Transactions on Communications Special Issue on Content Delivery Networks, Vol. E86-B, pp.1849-1858, June 2003.

(2) Masahiro Sasabe, Naoki Wakamiya, Masayuki Murata, and Hideo Miyahara, “Scalable and continuous media streaming on Peer-to-Peer networks,” in Proceedings of Third International Conference on Peer-to-Peer Computing (P2P2003), pp.92-99, September 2003.

(3) Masahiro Sasabe, Naoki Wakamiya, Masayuki Murata, and Hideo Miyahara, “Media streaming on P2P networks with bio-inspired cache replacement algorithm,” in Proceedings of The First International Workshop on Biologically Inspired Approaches to Advanced Information Technology (Bio-ADIT2004), (Lausanne), pp.80-95, January 2004.

(4) 笹部昌弘, 若宮直紀, 村田正幸, 宮原秀夫, “P2Pネットワークにおけるスケーラブルなメディア ストリーミング機構,” 電子情報通信学会技術研究報告(NS2003-101), pp.71-76, September 2003

(5) Masahiro Sasabe, Naoki Wakamiya, Masayuki Murata, and Hideo Miyahara, “Cache replacement algorithm for P2P media streaming,” 電子情報通信学会総合大会(発表予定), March 2004.

4.1.2 ハイブリッド型P2P動画像ストリーミング配信機構(NEC社との共同研究)

単一の動画像サーバから多数の利用者に効率的に動画像ストリーミング配信サービスを提供するためには、マルチキャストを用いるのが有効である。しかしながら、一般に利用可能なマルチキャストルータはなく、また利用者の動画像配信に対する要求は多様で時間的にも分散している。
 そこで本研究では、P2P通信によるアプリケーションレベルマルチキャストとブロードキャストスケジューリングアルゴリズムにより、サーバに負荷を与えることのない動画像ストリーミング配信を実現する。メディアデータはスケジューリングアルゴリズムに従ってセグメントに分割され、それぞれ異なるチャネル上でP2Pマルチキャストにより繰り返し配信される。新しくサービスに参加したピアは、スケジュールサーバからセグメントの受信スケジュールを指示され、それぞれのセグメントごとに配信ツリーに参加する。企業や組織のネットワークが拠点や部署といった論理構成を基準に構造化されていることを考慮し、マルチキャスト配信のためのP2P論理ネットワークは拠点間ツリー、サブネット間ツリー、およびサブネット内ツリーに階層化される。また、配信中のピアの離脱、リンク故障などに際して動画像再生の途切れを防ぐための障害回復機構を有する。シミュレーションによる評価の結果、数千ピアに対して、再生開始までの最大待ち時間が5.5秒以下、障害による再生の途切れが1.2秒以下の高品質な動画像ストリーミング配信サービスが提供可能であることを示した。

[関連発表論文]
(1) 末次信介, “物理網構成を考慮したハイブリッド型P2P動画像ストリーミング配信機構の評価,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2004.

4.1.3 アクティブP2Pネットワークにおける負荷分散機構

P2P型アーキテクチャにおいても、Napster、KaZaA、JXTAにおけるディレクトリサーバ、Gnutellaにおけるブートストラッピングノード、あるいは人気のあるコンテンツを所有するピアのように、負荷が集中し、ボトルネックとなるサーバ、ノード、ピアが存在する。P2Pネットワークは物理網の上に論理網として構築される、いわゆるオーバレイネットワークである。そのため、たとえディレクトリサーバを複数導入して負荷の分散、軽減を図ったとしても、必ずしも物理トポロジに応じた配置であるとは限らず、さらに、動的に変化するピアの分布、ネットワークの負荷状態に柔軟に適応することができない。
 本研究では、物理網と論理網の間に位置するアクティブネットワークが、アクティブルータを通過するパケットの観測に基づいてアプリケーションレベルのQoSを推定し、アプリケーションに対して動的かつ透過的に支援サービスを提供するフレームワークとして、アクティブP2Pネットワークを提案した。さらに、その応用例として、OpenNapサーバの動的負荷分散機構“Active OpenNap Cache Proxy”を設計、実システムに実装し、透過的なサービス導入によりOpenNapサーバの検索負荷が半分に抑えられるなど、その実用性、有効性を示した。

[関連発表論文]
(1) Jiangang Shi, Naoki Wakamiya, Masayuki Murata, and Hideo Miyahara, “Active load distribution mechanism for P2P application,” in Proceedings of the 5th Asia-Pacific Symposium on Information and Telecommunication Technologies (APSITT’03), pp.235-240, November 2003.

(2) 侍建港, 若宮直紀, 村田正幸, “アクティブP2P ネットワークにおける検索負荷分散機構に関する研究,” 第20回IN/NS合同ワークショップ, March 2004.

(3) Shi Jiangang, “Search load distribution mechanism for active P2P networks アクティブP2P ネットワークにおける検索負荷分散機構に関する研究,” Master’s thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2004.

4.1.4 分散ストリーミングコンテンツ生成システム手法に関する研究

アクセス回線の高速化を背景に、一般家庭においても、音楽ビデオ、ニュース、映画やドラマなどのインターネットを介した受信、視聴が一般的になりつつある。コンテンツ所有者やコンテンツ配信者は、これまで制作、蓄積してきた膨大な動画像コンテンツを、インターネットにより配信、提供することにより、多くの収入を得ることができることを期待している。しかしながら、そのためには、ダイアルアップ、ADSL、CATV、FTTH、無線、携帯電話などの様々なインターネットへの接続形態、デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータ、PDA、携帯電話などの様々なエンドシステム、さらにはRealOne Player、Windows Media Player、QuickTimeなどの様々なクライアントアプリケーションなど、利用者ごとに異なるシステム環境に応じて動画像コンテンツを適切に変換(トランスコード)、提供しなければならない。
 本研究では、多様なフォーマット、符号化レート、解像度の動画像データを効率的かつ高速に、また、過度に品質を劣化させることなく生成するための、分散トランスコーディング手法を提案している。提案手法では、ネットワークで接続された性能の異なる複数のコンピュータを用いて、分散型のトランスコードを行う。それぞれのコンピュータは、特定、または複数のフォーマット、符号化レート、解像度にトランスコードする機能を有している。動画像データを適切な大きさのセグメントに分割し、処理能力を考慮してこれらコンピュータに割り当て、出力結果を集約することで所望の動画像データを得ることができる。そのため、再結合時の品質劣化を防ぐセグメント分割および符号化パラメータ設定、セグメント割り当てのための処理能力推定、高速なトランスコードのためのスケジューリングなどについて検討し、シミュレーションや実システムを用いた評価の結果、10台のコンピュータを用いることにより、1台でのトランスコードと比較して画質を大きく劣化させることなく処理時間を1/5程度にできることなど、効果的であることを示した。

[関連発表論文]
(1) 三部靖夫, “分散環境における適応符号化による動画 像変換処理に関する研究,” 大阪大学大学院基礎工学研究科博士学位論文, March 2004.

4.1.5 動画像ストリーミングのためのプロキシキャッシング

動画像ストリーミング配信においても、ウェブシステムで広く用いられているプロキシ技術がサービスの可用性、応答性を高めるとともに、ネットワークやサーバへの負荷の軽減、分散に有効であると考えられる。さらに、プロキシに動画像品質調整機能を導入することにより、利用者のシステム環境やネットワークの負荷変動に応じて様々に異なる要求品質を効率よく満たすことができると考えられる。
 本研究では、サーバに負荷を与えることなく多数の多様な利用者に動画像をストリーミング配信するための、動画像品質調整可能なプロキシキャッシュサーバを実現した。プロキシキャッシュサーバは、動画像ストリームをブロックと呼ばれる固まりに分割し、ブロックを単位として転送、蓄積、加工することで、キャッシュバッファの有効利用および効率的なデータ転送を図る。また、空き帯域を利用したデータの先読みによりキャッシュミスによる遅延の発生を防ぎ、利用者の視聴位置や要求品質を考慮してキャッシュバッファ内ブロックを置き換える。さらに、近隣のプロキシキャッシュサーバと連携し、必要に応じて品質調整を施した上で動画像ブロックを交換することにより、より効率のよい、途切れの少ない、高品質な動画像ストリーミングサービスを実現する。一般に利用されている動画像ストリーミング配信サーバプログラム、クライアントアプリケーションを用いた実システムへの導入設計、実装、および実験により、本システムを用いることによって、ネットワークの負荷状態や利用者の要求品質を考慮した動画像ストリーミング配信が効果的に提供できることを示した。
 
[関連研究発表]
(1) Yoshiaki Taniguchi, Atsushi Ueoka, Naoki Wakamiya, Masayuki Murata, and Fumio Noda, “Implementation and evaluation of proxy caching system for MPEG-4 video streaming with quality adjustment mechanism,” in Proceedings of The 5th Association of East Asian Research Universities Workshop on Web Technology, pp.27-34, October 2003.

(2) 谷口義明, 上岡功司, 若宮直紀, 村田正幸, 野田文雄, “MPEG-4 動画像配信のための品質調整機能を組み込んだプロキシキャッシングシステムの実装と評価,” 電子情報通信学会技術研究報告(NS2003-45), pp.45-48, June 2003.

(3) 谷口義明, 若宮直紀, 村田正幸, “プロキシ協調型動画像配信システムの実装と評価,” 電子情報 通信学会技術研究報告(IN2003-190), pp.13-18, February 2004.

(4) Yoshiaki Taniguchi, “Design, implementation, and evaluation of proxy caching mechanisms for video streaming services,” Master’s thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2004.

4.1.6 アクティブネットワークによる実時間動画像マルチキャスト

実時間動画像マルチキャスト配信においては、利用者ごとに異なるシステム環境、ネットワークの負荷状態などに応じた品質の動画像を提供しなければならない。動画像配信サーバにおいて全ての利用者の通信状態を考慮し、それぞれに適した動画像データを生成、提供することは非現実的であり、利用者数や動画像数などに対する拡張性を欠く。
 本研究では、アクティブネットワーク技術を用い、網内のアクティブノードにおいて、マルチキャストグループを管理するとともに下流のアクティブノードやクライアントの要求に応じて動画像の品質を調整することにより、それぞれの利用者に適した品質の動画像データを効率的にマルチキャスト配信するためのフレームワークを提案している。動画像配信のためのマルチキャストグループは、アクティブネットワーク上に階層的に構築される。動画像配信サーバは、最も高い品質要求に応じた動画像をあるマルチキャストグループに対して送出する。このマルチキャストグループに参加しているアクティブノードは、受信した動画像データを直下のクライアントに提供するとともに、動画像品質調整を行った後、より下層のマルチキャストグループに配信する。個々のアクティブノードは、クライアントの受信状態を考慮して、マルチキャストグループを分割、統合、移動することにより、クライアントを適切なマルチキャストグループに収容する。シミュレーションによる評価の結果、ネットワークの負荷状態に応じてマルチキャストグループが適切に構成され、利用者の視聴する動画像の品質が向上することが示された。

[関連発表論文]
(1) Go Yoshida, Naoki Wakamiya, Masayuki Murata, and Hideo Miyahara, “Dynamic organization of active video multicast in heterogeneous environment,” in Proceedings of Asia-Pacific Conference on Communications 2003, vol. 2, (Penang), pp.150-156, September 2003.

4.2 高速トランスポートアーキテクチャに関する研究

エンドホスト間でデータ系トラヒックを高速に、かつ効率よく転送するための中心技術がトランスポートプロトコルである。特に、近年のネットワークの高速化に伴い、エンドホストにおけるプロトコル処理によるボトルネックも重要な問題となってきている。さらに、ネットワークが拡がりをみせるにつれ、サービスの公平性も重要な課題となってきている。これらの問題は、高速ネットワークにおける輻輳制御と密接な関連を持ち、高速かつ公平なサービスは、単にネットワークの輻輳制御だけでなく、エンドホストの処理能力向上も考慮しつつ、統合化アーキテクチャを構築することによってはじめて実現される。本研究テーマでは、それらの点を考慮した研究に取り組んでいる。また、CDN (Contents Distribution Network)やデータグリッドなどの、IPネットワーク上において特定のサービスを提供するためのオーバレイネットワークにおけるトランスポートアーキテクチャに関する研究も行っている。

4.2.1 エンドシステム/ネットワーク統合環境におけるTCPの高速・高機能化に関する研究

インターネットの急速な発展にともなうトラヒックの増大に対し、バックボーンネットワークでは広帯域化、高速化が急速に進められている。その結果、現在のインターネットにおいてはエンドホスト資源やアクセスリンク資源がボトルネックになりつつある。たとえば、繁忙なWeb サーバなどにおいてTCP を用いたデータ転送を行う際、エンドホストのソケットバッファ、ディスクリプタ、CPU 資源などのTCPコネクションを確立するための資源が不足することによってエンドホストがボトルネックなることが問題となる。そこで、本研究においては、この問題を解決するためにエンドホストにおけるTCP コネクション資源の管理方式を提案し、シミュレーション、実装実験を通して、その有効性を確認した。一方、現在のインターネットではDSL (Digital Subscriber Line) などの普及によって、ユーザホストとインターネットを接続するアクセスリンク帯域は増加している。しかしながら、依然としてアクセスネットワークの帯域はバックボーンネットワークに比べると十分ではなく、特にユーザが複数のネットワークアプリケーションを同時に利用するような場合ではアクセスリンク帯域がボトルネックとなる。また、標準のTCP コネクションのスループットはRTT などのパラメータに大きく影響されるため、必ずしもユーザの意図した割合でアクセスリンク帯域がアプリケーション間で共有されない。
 そこで本研究では、これらの問題点を解決し、ボトルネックとなるアクセスリンク資源を有効に活用するためのアクセス資源管理方式を提案した。提案方式においては、まずユーザホストで全てのTCP コネクションに割り当てられる受信バッファの総量を仮想的に調節することによって、アクセスリンクの輻輳を防止する。その後、各TCP コネクションへの受信バッファの割り当てを、TCPコネクションの性質に基づいて決定する。シミュレーションによる性能評価結果より、提案方式はデータ転送時間の減少、およびアクセスリンクでの輻輳の回避や遅延の減少に大きな効果があり、従来方式と比較した場合、アクセスリンクの利用率を高く維持したまま、 short-lived コネクションにおけるドキュメント転送の遅延を最大 90% 削減できることが明らかとなった。

[関連発表論文]
(1) Go Hasegawa, Tatsuhiko Terai, Takuya Okamoto, and Masayuki Murata, “Scalable resource management for high-performance Web servers,” to appear in International Journal of Communication Systems, September 2004.

(2) Kazuhiro Azuma, Takuya Okamoto, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “Design, implementation and evaluation of resource management system for Internet servers,” submitted to Journal of High Speed Networks, October 2003.

(3) Kazuhiro Azuma, Go Hasegawa and Masayuki Murata, “Receiver-based Management Scheme of Access Link Resources for QoS-Controllable TCP Connections,” submitted to IEEE GLOBECOM 2004, March 2004.

(4) 東和弘, 長谷川剛, 村田正幸, “インターネットサーバにおけるTCPコネクション資源管理手法の実装評価,” 電子情報通信学会技術研究報告(CQ03-50), pp. 49-54, September 2003.

(5) 東和弘, 長谷川剛, 村田正幸, “インターネットホストにおけるTCP コネクションのためのアクセスリンク資源管理方式,” 電子情報通信学会技術研究報告(発表予定), March 2004.

(6) Tutomu Murase, “Traffic control and architecture for high-quality and high-speed Internet,” Ph.D Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, pp.1-149, March 2004.

(7) K. Azuma, “A study on receiver-based management scheme of access link resources for QoS-controllable TCP connections,” Master’s thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2004.

4.2.2 サービスオーバーレイネットワークにおけるインラインネットワーク計測技術に関する研究

近年のネットワークサービスの多様化に伴い、サービスオリエンテッドなネットワーク(サービスオーバレイネットワーク)が拡がりつつある。例えば、ピア同士の直接的な通信を実現するP2Pネットワーク、ネットワーク上での分散計算環境を提供するグリッドネットワーク、コンテンツ配信を目的としたContents Delivery Network (CDN)、IPネットワーク上に仮想網を構築するIP-VPNなどである。これらのネットワークは、IPネットワークを下位層ネットワークとして、特定のサービスを提供する上位層ネットワークととらえることができる。したがって、これらのネットワークにおいてサービス品質を向上させるためには、下位層ネットワークであるIPネットワークを与条件として、サービス提供のためのコネクション設定要求が発生した時に、利用可能な下位層ネットワーク資源量を適切に把握することが重要である。しかし、既存の利用可能帯域計測方式は、計測に長い時間がかかる、多くの計測用のパケットを用いるため外部トラヒックに与える影響が大きいなどの特徴を持つ。サービスオーバーレイネットワークにおいては、常に最新の利用可能なネットワーク資源量をネットワーク内の他のトラヒックに悪影響を与えることなく取得することが重要であり、そのため既存の方式をそのまま適用することはできない。
 そこで本研究では、 IP ネットワークのエンドホスト間で利用可能な帯域幅をリアルタイムかつ少ないオーバーヘッドで計測する方式を提案する。提案方式は TCP コネクションのデータ転送時に得られる情報に基づいて計測を行なうインラインネットワーク計測と呼ばれる方式であり、新たな計測用のトラヒックをネットワークに導入する必要がなく、かつ計測結果を素早く導出することが可能となる。本研究ではまず、インラインネットワーク計測を可能とするための条件である、計測用パケット数が少ない、他のトラヒックに影響を与えない、かつ素早く連続的に計測結果を導出可能、を満たす計測アルゴリズムを提案する。その後、提案したアルゴリズムをTCPに導入するためのTCPの変更方法を紹介する。提案方式はTCPの送信側だけを変更することで導入可能である。また、インライン計測機能を導入したTCPにはアプリケーションが計測結果を適切なタイムスケールで獲得するための仕組みを持つ。さらに本研究では、インライン計測による利用可能帯域の計測結果を利用して、TCPコネクションそのもののデータ転送性能を向上させるための手法を示している。
 シミュレーション結果から、インラインネットワーク計測を行うTCPがその転送速度を落とすことなく、 数RTTに 1 回計測結果を導出することが可能であることがわかった。また、計測結果を用いることにより、計測を行うTCPコネクションがネットワーク内の他のトラヒックにほとんど影響を与えることなくリンク利用率を高く維持したり、従来TCPがネットワーク帯域を使いきれない環境において、従来TCPに比べて高いスループットを得ることができることがわかった。また、提案手法を実コンピュータ上に実装し、計測アルゴリズムが実験ネットワーク上でシミュレーションによって得られているのとほぼ同等の性能を示すことが明らかとなった。

[関連発表論文]
(1) Cao Le Thanh Man, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “A new available bandwidth measurement technique for service overlay networks,” in Proceeding of 6th IFIP/IEEE International Conference on Management of Multimedia Networks and Services Conference, MMNS2003, pp.436-448, September 2003.

(2) Cao Le Thanh Man, “A study on inline network measurement mechanism for service overlay networks,” Master’s thesis, Graduate School of Information Science, Osaka University, February 2004.

(3) Insixiengmai Leuth, “サービスオーバーレイネットワークのためのインラインネットワーク計測手法の実装および評価,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2004.

4.2.3 TCPオーバレイネットワークに関する研究(NEC社との共同研究)

ADSL やFTTH といった広帯域アクセス網技術の進展により、近年ますますインターネットが発展し、ユーザ数の爆発的な増加に伴い、要求されるサービスが多様化している。それらの中には、エンドホスト間のスループットなどに関して高いネットワーク品質を要求するサービスもあるが、現在のインターネットはベストエフォート型であり、ユーザの要求品質を満たすことはできない。この問題を解決し、IP 層において品質制御を行う技術としてIntServやDiffServ などが存在する。例えばDiffServでは、サービスの種類によってルータにおけるパケット処理の優先順位を決定することによって、各フローの通信品質の差別化を行うことを目的としている。しかしながら、IntServやDiffServを実現するためには、フローが通過するすべてのルータに品質制御機能が実装されている必要があり、ネットワーク規模に対するスケーラビリティ、導入コストなどの面から実現は困難であると考えられる。一方、CDN (Contents Delivery Network)におけるプロキシキャッシュサーバなどのように、品質制御をアプリケーション層で行う技術も研究されているが、各アプリケーションに特化した複雑な制御を必要とする、所望の性能を得るためのパラメータセッティング等が困難である、などの問題がある。
そこで我々は、IP層やアプリケーション層において品質制御を行うのではなく、IP層においては従来のルーティングなど必要最低限の機能のみを提供し、品質制御をトランスポート層において行うTCPオーバレイネットワークに関する研究を行っている。TCPオーバレイネットワークにおいては、通常エンドホスト間に設定されるTCPコネクションをネットワーク内のノード(TCPプロキシ)で終端し、分割されたコネクションごとにパケットを中継しながら転送を行う。これにより、TCPコネクションのフィードバックループを小さくすることが可能になるため、スループットの向上を期待することができる。また、TCPオーバレイネットワークを構築することによって、ネットワーク環境の違いを吸収することが可能になるため、要求されるサービス品質に応じた制御を行うことが可能になる。例えば、送受信ホスト間に無線ネットワークが含まれる場合、一般的にはTCP コネクションのスループットは大幅に低下する。しかし、無線ネットワーク部分でデータ転送が独立するように、その前後でコネクション分割を行うことにより性能劣化を最小限に抑えることが可能である。
 そこで本研究では、TCP オーバレイネットワークにおいて必要不可欠であるTCP コネクション分割機構について説明し、コネクション分割を行うことによりエンドホスト間のデータ転送速度が向上することを、簡単な数値例を用いて示した。しかし、既存システムの変更を最小限にとどめるために、TCP の輻輳制御アルゴリズムを各中継ノードにおいて独立に動作させる場合、それらが互いに干渉し、その結果期待するほどのスループットが得られないことが明らかとなった。そこで、この問題を考慮したエンドホスト間のスループット解析を示し、その妥当性をシミュレーションとの比較により検証した。その結果、スループット劣化はTCPプロキシの前後のコネクションが通過するネットワーク環境に差が少ない場合に大きくなり、最大で約60%性能が低下することがわかった。また、そのスループット劣化を防止するためには、従来TCPコネクションに必要とされる量の3倍から10倍の送信バッファが必要であることが明らかとなった。

[関連発表論文]
(1) 牧一之進, 長谷川剛, 村田正幸, 村瀬勉, “TCPオーバレイネットワークにおけるTCPコネクション分割機構の性能解析,” 電子情報通信学会技術研究報告(IN03-198), February 2004.

(2) 山崎康広, 村瀬勉, 長谷川剛, 村田正幸, “TCP中継における輻輳伝達制御方法と性能評価,” 電子情報通信学会技術研究報告(IN03-136), December 2003.

4.2.4 超高速データ転送を実現するTCPの輻輳制御方式に関する研究

例えば、近年注目されているデータグリッドネットワーク、ストレージエリアネットワーク等においては、エンド端末が1 Gbpsクラスの帯域を持つ高速ネットワークに直接接続され、データの取得・送出、データベースの更新、遠隔バックアップ等において、ギガバイトからテラバイト級のデータを高速に転送することが要求される。このような高速データ転送を行う場合に、現在のインターネットにおいて標準的に用いられているTCP Renoバージョンを用いると、大きなリンク帯域を十分使う程度のスループットを得ることができないという問題が指摘されている。この問題を解決するための一つの方法として、TCP Renoの輻輳制御方式を改変し、高いスループットを得ることができるHighSpeed TCPと呼ばれる方式が提案されているが、その性質はこれまで明らかになっておらず、特に従来のTCP Renoバージョンとの公平性に関しては考慮されていない。
 そこで本研究では、HighSpeed TCPコネクションが従来のTCP Renoコネクションと同じリンクを共有する場合の、スループットおよび公平性に関して、数学的解析手法およびコンピュータ上のシミュレーションを用いて考察している。その結果、HighSpeed TCPは従来のTCP Renoに比べて非常に高いスループットを得ることができるが、システム条件によっては大量のパケット廃棄によってスループットが著しく低下し、リンク帯域を十分使う程度のスループットを得ることができない場合があること、また、従来のTCP Renoと同じリンクを共有する場合、TCP Renoを用いたコネクションのスループットを大幅に低下させるため、両者の間の公平性を維持することができない等の問題点を持つことを明らかにしている。さらに本研究では、解析によって明らかになったHighSpeed TCPが持つ問題点を解決し、高いスループットを得るとともに、TCP Renoコネクションとの公平性を改善するTCPの輻輳制御方式の提案を行っている。提案方式の有効性はシミュレーションによって評価を行い、提案方式によって、従来のTCP Renoコネクション公平性を大幅に改善し、HighSpeed TCPに比べて最大で約50%のスループット向上を実現できることを示している。

[関連発表論文]
(1) 長谷川剛, 村田正幸, “高速転送を可能とするTCP の輻輳制御方式,” 第13回インターネット技術第163委員会研究会, May 2003.

4.2.5 フロー間の公平性を実現する階層化パケットスケジューリング機構に関する研究

現在インターネットワークトラヒックの大部分を占めるBest effort系トラヒックの品質に関して最も重要な目標の一つが各ユーザへの公平なサービスの実現である。今後、インターネットがますます重要なインフラと化してゆき、また各ユーザのアクセス帯域が大きくなるに従って、ユーザ間の公平なサービスはますます重要になってくると考えられる。公平なサービスを実現する手段としては、ネットワーク内の全てのルータにおいてユーザフローごとにスケジューリングする方式が提案されている。しかしながら、非常に多くのフローを超高速に扱うことはハードウェア技術上非常に困難であり、この方式はバックボーンネットワークにはスケールしないと考えられる。そこで本研究では、フロー毎に優れた公平性を提供し、エッジルータやコアルータの能力に合わせた、スケーラブルなスケジューリング方式を提案した。エッジのルータではper-flowにほぼ近い制御を行い、コアのルータでは複数のフローを集約して制御を行うことでスケーラブルを実現する。また、複数のフローを集約することで失われた情報を、集約された単位ごとのフロー数を推定したり、レートの高いフローを発見したりして、そのフローのパケットに対して優先的に棄却することにより、公平な制御を行うことができるようにする。本研究では、提案方式をシミュレーションによって評価し、集約された単位の公平性だけではなく集約された単位の中の個々のフローごとの公平性も実現できることを示している。また、フローの集約度と公平性の関係も明らかにし、高速なコアルータに実装可能な程度にフローを集約した場合でも、エンド間ではper-flow制御と同等の公平性を実現できることを示している。

[関連発表論文]
(1) Ichinoshin Maki, Hideyuki Shimonishi, Tutomu Murase, Masayuki Murata, and Hideo Miyahara, “Hierarchically aggregated fair queuing (HAFQ) for per-flow fair bandwidth allocation in high speed networks,” in Proceedings of Internet Conference on Communication (ICC), vol. 3, pp.1947-1951, May 2003.

4.2.6 ネットワークプロセッサを用いた実験用ネットワークエミュレータの構築に関する研究

本研究では、Intel株式会社製のネットワークプロセッサであるインテルIXP 1200を用いて実験用ネットワークエミュレータシステムを構築するために必要となる機能、及びその設計指針を示し、いくつかの機能の実装を行っている。まず、実験用ネットワークエミュレータに必要な機能として、バッファ制御方式、リンク遅延やパケット廃棄機能を挙げ、それぞれについてインテルIXP 1200上へ実装するための設計指針を示している。また、インテルIXP 1200のソフトウェアシミュレータを用いて、それらの機能をIXP 1200実機に実装した時に予想される性能の計測評価、及び実装した機能が動作していることの確認を行っている。また、IXP 1200実機へ実装してパケット転送実験を行い、我々が提案するエミュレータシステムが、ALTQ等の従来のPCベースのパケット転送システムと比較してより高速なパケット処理が実現されていることを示している。

[関連発表論文]
(1) Go Hasegawa, Haruki Tojo, and Masayuki Murata, “Realizing a network emulator system with intel IXP1200 network processor,” in Proceedings of 5th Asia-Paci.c Symposium on Information and Telecommunication Technologies (APSITT 2003), November 2003.

4.3  次世代ルーティングアーキテクチャに関する研究

4.3.1 IPv6 ネットワークにおけるエニーキャスト通信実現のためのプロトコル設計と実装(NEC との共同研究)

インターネットの普及によって、インターネット接続端末数は爆発的に増加し、その結果既存のIPv4 のアドレスでは、すべての端末に IP アドレスを設定できないという、アドレス枯渇問題が現実となりつつある。この問題を解決する次世代の IPv6 について、現在標準化が活発になされている。IPv6 は、IPv4 のアドレス枯渇問題を解決するだけでなく、IPv4 では存在しない新しい機能についても多く提案および標準化が行われている。しかしながら、これらの機能を実現するためには、数多くの解決すべき技術課題が存在する。本研究テーマでは、IPv6 ネットワークを実現するために必要とされるこれらの技術課題について取り組み、解決法を示すことを目標としている。
 本研究では特に、IPv6 の新しい機能のひとつであるエニーキャストルーティングを対象とした。エニーキャストアドレスとは、複数の端末に対して同一のアドレスを割り当てる技術であり、クライアント側は複数存在する同一アドレスのサーバから、適切なサーバに対して通信することが可能となる。しかし、現在エニーキャストアドレスの機能はほとんど利用されていないのが実状である。この原因として、エニーキャスト通信に必要となる多くの機能がいまだ定義されていないこと、エニーキャストに適したアプリケーションが明確でないこと、また、実運用に必要な技術が整備されていないことなどがあげられる。本研究では、これらの問題を統合的に扱い、エニーキャストをより使いやすく、また広く普及するために必要なものが何か、という問題についてその解決法を示すことを目標としている。以下に今年度取り組んだ課題についてそれぞれ説明する。

・エニーキャストアドレスに関する機能の明確化
先にも述べたとおり、エニーキャストの利用は非常に制限されており、有効な利用方法は見つかっていない。その理由の一つとして、エニーキャスト自体の定義の曖昧さが利用者の混乱を引き起こしていることがあげられる。本研究では、まず今後の議論のためにエニーキャスト通信で用いる用語を定義した、新たなドラフトを作成した。次に、定義した用語を用いてエニーキャストの利用方法をいくつか例を挙げ説明し、さらに、エニーキャストを利用するために必要となる機能の定義を行った。

[関連発表論文]
(1) Satoshi Doi, Ibrahim Khalil, Shingo Ata, Hiroshi Kitamura, and Masayuki Murata, “IPv6 Anycast Functionality/Terminology Definition,” Internet Draft, draft-doi-ipv6-anycast-func-term-01.txt, February 2004.

・エニーキャストアドレス解決プロトコル
エニーキャストアドレスを用いた通信では、同一エニーキャストアドレスに対するパケットは必ずしも同一ホストに到達するとは限らない。したがって、エニーキャストアドレスを直接 TCP などのプロトコルで利用することはできない。このような場合、通信開始前にあらかじめエニーキャストアドレスをユニキャストアドレスに変換(エニーキャストアドレス解決)すれば、同一ホストへの到達性が確保され、TCP 接続を行うことができる。本研究では、エニーキャストアドレス解決の手順を定義し、エニーキャストアドレスを用いた通信においても、実際の通信時にはユニキャストアドレスを用いることで、TCP 通信を実現する機構を提案した。さらに、このメカニズムをSOCKS などで用いられる動的ライブラリの手法を用いて実装し、すべてのアプリケーションがソースコードの修正をすることなくシームレスにエニーキャスト・ユニキャスト通信が行える環境を実現した。

[関連発表論文]
(1) Shingo Ata, Hiroshi Kitamura, and Masayuki Murata, “A protocol for anycast address resolving,” Internet Draft draft-ata-ipv6-anycast-resolving-01.txt, February 2004.

(2) Satoshi Doi, Shingo Ata, Hiroshi Kitamura, Masayuki Murata and Hideo Miyahara, “Protocol Design for Anycast Communication in IPv6 Network,” in Proceedings of 2003 IEEE Pacific Rim Conference on Communications, Computers and Signal Processing (PACRIM'03), pp.470-473, August 2003.

・エニーキャストルーティングプロトコルの設計および実装
エニーキャスト通信を使えば、複数のサーバの中から最適なサーバと自動的に通信可能となる。しかし、この最適なサーバ選択を実現するには、新たなルーティングプロトコルのサポートが必要となるため、現状では利用できない。本研究では、ネットワーク上の任意の場所にエニーキャストサーバが存在する場合に必要となる、ルーティングプロトコルの設計を行った。その特徴としては、(1) エニーキャストネットワークへの段階的な移行、(2) 到達性の確保(少なくとも一つのホストに必ず到達する)、(3) スケーラビリティの確保、(4) より少ない修正、があげられる。本研究では、特にエニーキャスト通信とマルチキャスト通信との類似性を元に、既存のインターネットへの適用性を考慮した新たなエニーキャストルーティングプロトコルを提案した。特にルーティングプロトコルの設計においては将来の標準化も視野に入れ、その方式の違いから異なる3種類のプロトコルの設計、並びに実装を行った。いずれのプロトコルも実験環境において適切なサーバ選択がなされることが示された。今後は、運用段階を考慮に入れた検証を行い、どのプロトコルが適しているかを実験的に明らかにしていく予定である。

[関連発表論文]
(1) Satoshi Doi, Shingo Ata, Hiroshi Kitamura and Masayuki Murata, “IPv6 Anycast for Simple and Effective Communications,” to appear in IEEE Communication Magazine, May 2004.

(2) Satoshi Doi, “Design, Implementation and Evaluation of Routing Protocols for IPv6 Anycast Communication,” Master’s thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2004.

(3) 松永 怜士, “IPv6 エニーキャストルーティングプロトコル PIA-SM の設計および実装,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2004.

・エニーキャストアドレスの現実的な運用シナリオ
本研究では、既存の技術を用いたエニーキャスト通信の導入ストーリーをケーススタディとして列挙している。エニーキャスト通信が広く普及していない要因として、「エニーキャスト通信がどの範囲で実用できるかが不明」「エニーキャスト独自のアプリケーションが不明確」であると考える。しかし、これらの問題点はいずれか一方のみを考えれば解決する問題ではない。本ドラフトは、これら2つの問題点を解決するためのたたき台とするために、現在の技術だけで実現可能なエニーキャスト通信のストーリーを列挙した。このドラフトはあくまでも技術的な実現可能性を元に通信モデルの列挙に徹しており、アプリケーションに関する話題は考えられる利用例を並べているだけにすぎない。今後、本ドラフトを用いてアプリケーション側から着目した場合の問題点、課題を明らかにしていくことを目指す。

[関連発表論文]
(1) Shingo Ata, Ibrahim Khalil, Hiroshi Kitamura, and Masayuki Murata, “Possible deployment scenarios for IPv6 anycasting,” Internet Draft draft-ata-anycast-deploy-scenario-00.txt, February 2004.

4.4  ネットワークにおけるフィードバックメカニズムの解明に関する研究

ネットワークの高速化、効率化の中心技術となるのが輻輳制御である。旧来の電話交換網における輻輳制御では、アーラン呼損式を核とするトラヒック理論がその理論的な支柱となってきた。一方、インターネットに代表されるコンピュータネットワークにおいては、待ち行列理論が古くから輻輳制御設計を解決するものとされてきた。しかしながら、インターネットにおいては、エンド間トランスポート層プロトコルであるTCPがネットワークの輻輳制御の役割も担っている。TCPは基本的にフィードバックメカニズムに基づくものであり、従来の待ち行列理論に代表されるマルコフ理論が意味をなさないのは自明である。本研究テーマでは、そのような考え方に基づき、ネットワークの輻輳制御の解明を目指した研究を進めている。

4.4.1. 制御理論にもとづくリアルタイム系および非リアルタイム系輻輳制御の混在環境の解析

近年、インターネットの高速化に伴い、動画像のストリーミング転送に代表されるような、リアルタイム系のアプリケーションが急速に普及しつつある。リアルタイム系のアプリケーションは、トランスポート層プロトコルとして、UDP (User Datagram Protocol)またはTCP (Transmission Control Protocol)のどちらかを用いる。インターネットは、複数の利用者がネットワーク帯域を共有する、ベストエフォート型のネットワークである。このため、すべてのネットワークアプリケーションは、ネットワークの輻輳状況に適応する機構が必要となる。
 現在のインターネットでは、大部分のトラヒックがTCP (Transmission Control Protocol)によって転送されている。TCPは送信側ホストと受信側ホストの間で輻輳制御を行い、ネットワークの利用可能帯域にあわせてパケットの送出量を調整する機構を有している。しかし、TCPの輻輳制御機構は、AIMD(Additive Increase Multiplicative Decrease)型のウィンドウフロー制御であるため、ラウンドトリップ時間程度のタイムスケールで、送信側ホストからのパケット送出レートが変動してしまう。これは、TCPをデータ転送など非リアルタイム系のアプリケーションで用いる場合には問題とならないが、動画像のストリーミング転送のような、リアルタイム系のアプリケーションでは大きな問題となる。そこで、リアルタイム系のアプリケーションが用いる輻輳制御として、TCPとの公平性を実現することを目指したレート制御方式であるTFRC (TCP-Friendly Rate Control)が注目されている。
 これまで、リアルタイム系輻輳制御であるTFRCと、非リアルタイム系輻輳制御であるTCPが混在した環境における、それぞれの輻輳制御の特性解析は進められている。しかし、これらの研究の大部分はシミュレーション実験をもとにしており、TFRCとTCPが混在する環境における、定常特性や過渡特性の解析はまったく行なわれていない。そこで本研究では、TFRCコネクションおよびTCPコネクションが単一のボトルネックリンクを共有するというネットワークにおける、TFRCおよびTCPの定常特性および過渡特性を解析した。まず、TFRCコネクションおよびTCPコネクションのラウンドトリップ時間が一定のもとで、TFRCコネクション、TCPコネクション、REDルータを、それぞれ離散時間システムとしてモデル化した。その後、ここで得られた離散時間モデルを利用して、定常状態におけるTCPコネクションのスループット、TFRCコネクションの送信レート、REDルータの平均キュー長、REDルータにおけるパケット棄却率を導出する。さらに、離散時間モデルを平衡点の近傍で線形化し、平衡点の近傍におけるTCPコネクションおよびTFRCコネクションの過渡特性を解析した。その結果、例えば、TFRCはTCPコネクションとの公平性を実現することを目指して設計されているが、定常状態において、TFRCコネクションのスループットは、TCPコネクションのスループットよりも大きな値となることを定量的に示した。また、TCPのコネクション数もしくはTFRCのコネクション数が増加するにつれ、もしくはボトルネックリンクの容量が増加するにつれ、TFRCおよびTCPの過渡特性が劣化する(逆に、安定性が向上する)ことなどがわかった。

[関連発表論文]
(1) Hiroyuki Hisamatu, Hiroyuki Ohsaki, and Masayuki Murata, “Modeling a heterogeneous network with TCP connections using fluid flow approximation and queuing theory,” in Proceedings of SPIE’s International Symposium on the Convergence of Information Technologies and Communications (ITCom 2003), pp.893-902, September 2003.

(2) 久松潤之, 大崎博之, 村田正幸, “リアルタイム系および非リアルタイム系輻輳制御の混在環境の解析,” 電子情報通信学会技術研究報告 (IN2003-46), pp.25-30, July 2003.

4.5 モバイルインターネットアーキテクチャに関する研究

事前の配線を必要とせず、必要に応じて、適宜、柔軟にネットワークを構築することのできる無線通信技術は、デバイスの小型化および省電力化、高機能な携帯電話の普及、無線ホットスポットの広がり、ユビキタスコンピューティングに対する期待の高まりなどを背景に、企業や研究者の注目を集め、急速に発展している。現状では、いわゆるアドホックな、その場限りであれ、接続性を確保することが最重要であり、続いて、信頼性の高い高品質な接続の確立および維持、さらに無線通信上でのQoS保証、制御を目指した取り組みがなされている。本研究テーマでは、その先の段階として、モバイルホストやセンサ端末など個々の機器の自律的な、完全分散型の制御による、拡張性、耐障害性、適応性、柔軟性を有するアーキテクチャの確立を目指す。

4.5.1 センサネットワークにおけるセンサ情報収集のためのクラスタリング

無線通信機能を有する数百~数千のセンサ端末を設置し、環境や物体の情報を収集するセンサネットワークにおいて、長期間の観測を行うためには、電力効率のよいセンサ情報収集機構が必要不可欠である。センサ情報収集の電力消費を抑えるためには、近隣のセンサ端末間でクラスタを形成し、クラスタ内であるセンサ端末(クラスタヘッド)にセンサ情報を集約し、クラスタヘッドが基地局にセンサ情報を送信する手法が有効であると考えられる。さらに、クラスタヘッドを交代制にし、センサ端末間で電力消費を均一化するのがよい。
 本研究では、局所的な情報のやりとりを通じたセンサ端末の自律的な判断により、残余電力を考慮した効率のよいクラスタを形成するクラスタリング手法を提案する。提案手法は、蟻の敵味方判別の仕組みを応用したクラスタリング手法である、ANTCLUSTに基づいている。蟻は、遭遇した他の蟻と化学物質を交換することによりその所属する巣を推定し、敵か味方かを判別する。一方、提案手法では、残余電力の多いセンサ端末がクラスタヘッドに立候補し、他のセンサ端末の一部がクラスタの情報をブロードキャストしてクラスタの情報を周囲に広告する。この広告の受信を遭遇とみなし、受信した情報から自身の所属すべきクラスタをセンサ端末が自律的に判断することによりクラスタが適切に再構成される。シミュレーションによる評価の結果、初期電力が均一、不均一に関わらず、クラスタベースのセンサ情報収集機構LEACHよりも長期間にわたってセンサ情報の収集が可能であることを示した。

[関連発表論文]
(1) 上村純平, 若宮直紀, 村田正幸, “センサネットワークにおける情報収集のための消費電力を考慮したクラスタリング手法,” 電子情報通信学会技術研究報告(発表予定), March 2004.

4.5.2 同期型センサ情報収集機構

センサ端末から定期的にセンサ情報を収集するセンサリケーションに対しては、情報収集の周期にあわせて、センサネットワークの周縁部のセンサ端末から順にセンサ情報を発信し、より基地局に近いセンサ端末が中継する手法が効率的である。さらに、基地局から同程度離れたセンサ端末が同期してセンサ情報を発信すれば、より基地局に近いセンサ端末は信号受信のタイミングだけ無線受信機の電源を入れればよく、また、受信したセンサ情報と自身のセンサ情報を集約してデータ量を減らすことができれば、より電力効率のよいセンサ情報の収集が可能となる。
 本研究においては、拡張性、耐障害性、適応性、柔軟性があり、電力効率のよい、同期型センサ情報収集機構を提案している。個々のセンサ端末が自律的にセンサ情報を発信するタイミングを調整することにより、互いに直接信号をやりとりすることのできないセンサ端末が同期し、センサネットワーク全体として適切な周期、タイミングでセンサ情報が収集される。そのため、提案手法では、蛍やコオロギなどに見られる相互干渉による同期メカニズムをモデル化した、パルス結合振動子モデルを応用している。シミュレーションにより提案手法の有効性を示すとともに、市販の無線センサ端末MOTE2への実装を通じ、無線通信の不安定性による提案手法の問題を解決し、その実用性を示した。

[関連発表論文]
(1) Naoki Wakamiya and Masayuki Murata, “Scalable and robust scheme for data fusion in sensor networks,” in Proceedings of the First International Workshop on Biologically Inspired Approaches to Advanced Information Technology, (Lausanne), pp. 305-314, January 2004.

(2) 若宮直紀, 村田正幸, “センサネットワークのための同期型センサ情報収集機構,” 電子情報通信学会技術研究報告(発表予定), March 2004.

(3) 樫原俊太郎, “センサネットワークにおける同期型センサ情報収集機構の実装と評価,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2004.

4.6 モバイルアドホックネットワークアーキテクチャに関する研究

無線技術の進歩に伴い、無線端末が自律分散的にネットワークを構成するアドホックネットワークが実用化され、その適用範囲が広がりつつある。また、アドホックネットワークの端末にセンサ機能を搭載することにより、マルチポイントの環境情報をセンシングできるセンサネットワークが実現可能となってきている。本研究テーマでは、アドホックネットワークを実現するためのプロトコルの設計・性能評価、およびセンサネットワークの性能評価に着目した研究を行なっている。アドホックネットワークに関しては、有線ネットワークの相互接続の観点から、TCPによる通信を重視している。そこで、特に生存時間の短いTCPコネクションに対して、ルーティングのためのオーバーヘッドを小さくすることを目指したプロトコルであるLHRを提案する。また、アドホックネットワークではTCPの性能が非常に劣化してしまうという問題があるが、それを解決しスループットをできるだけ向上させるためのデータリンク層の制御方法について研究を行なっている。さらに、センサネットワークに関しては、ネットワーク設計の際に必要となる基礎データとして、クロスボー社のMOTEを用いた実際の利用環境の下での通信実験を行ない、消費電力と通信距離の関係をモデル化した。

4.6.1 生存時間の短いTCPコネクションのための低遅延ルーティングプロトコルに関する研究

従来のアドホックネットワークTCP通信の性能向上に関する研究の多くは、TCPコネクションが永続的なものであることを仮定していた。しかし実際には多くのTCPコネクションの生存時間は短く、永続的なコネクションのみを仮定することは不適切である。短いTCPコネクションにおいては、アドホックネットワークにおけるルーティングの遅延時間が無視できないほど長いものとなる。本研究で我々は、生存時間の短いTCPコネクションが多数存在するアドホックネットワークに適した、新たなルーティングプロトコル、LHR (Low-latency Hybrid Routing)を提案する。シミュレーションによる評価の結果、LHRは既存のルーティングプロトコルよりも多くのコネクションを、短時間に処理できることが明らかとなった。

[関連発表論文]
(1) Takayuki Yamamoto, Masashi Sugano, and Masayuki Murata, “Routing in ad hoc networks for processing many short-lived TCP connections,” in Proceedings of ANWIRE 1st International Work-shop on Wireless, Mobile & Always Best Connected, April 2003.

(2) Takayuki Yamamoto, Masashi Sugano, and Masayuki Murata, “A low-latency routing in ad hoc networks for short-lived TCP connections,” submitted to IEICE Transactions on Communications, July 2003.

4.6.2 アドホックネットワークの性能向上に関する研究(富士電機社との共同研究)

フレキシブル無線ネットワーク(FRN)はアドホック無線ネットワークシステムを使った製品の一つであり、パケット伝送誤りに対してデータリンク層の再送機構を備えた独自のプロトコルを実装している。本研究では、データリンクプロトコルとルーティングプロトコルを実装したシミュレーションによって性能を評価し、その基本的な特性を明らかにする。その過程において見つかった、システムの性能を劣化させてしまうプロトコル上の問題点に対して、いくつかの手法を提案した。それらを実装したシミュレーションを用いた比較を行い、提案手法によってスループットやパケット損失率が改善されることを確かめた。

[関連発表論文]
(1) Takayuki Yamamoto, Masashi Sugano, Masayuki Murata, Takaaki Hatauchi, and Yohei Hosooka, “Performance improvement of an ad hoc network system for wireless data service,” IEICE Transactions on Communications, Vol. E86-B, pp.3559-3568, December 2003.

4.6.3 アドホックネットワーク上のTCPの性能向上に関する研究

FRNのようなアドホックネットワークにおいてTCPによる通信を行なった場合、同じ無線チャネル上でデータとACKのパケットが逆方向に送信される。そのため、パケットが頻繁に衝突し、スループットが大きく低下してしまう。このようなパケットの衝突を防ぐために、中間ノードにおいてデータとACKのパケットを結合し同時に送信することで、無線帯域を効率よく利用することができる。シミュレーションで様々なトポロジーで評価した結果、我々の提案手法を用いることで最大 60% のスループット向上が得られることが分かった。また、データリンク層でホップごとの再送確認を行なうようなシステムでは、受領確認の喪失によってパケットの複製が発生する。TCPはこのようなパケットの複製による負荷の変化を想定していないため、TCPの輻輳制御機構だけでは性能劣化を抑えることができない。そこで本研究では、データリンク層での再送間隔をノードの負荷に応じて制御する手法を提案する。シミュレーションによる性能評価を行った結果、提案する手法によってTCPのスループットが最大16%改善し、また無線回線の伝送誤りによるパケット損失が発生する場合にも効果があることが示された。

[関連発表論文]
(1) Masashi Sugano and Masayuki Murata, “Performance improvement of TCP on a wireless ad hoc network,” in Proceedings of IEEE Vehicular Technology Conference 2003 Spring (VTC 2003 Spring), (Cheju), April 2003.

(2) Taichi Yuki, Takayuki Yamamoto, Masashi Sugano, Masayuki Murata, Hideo Miyahara, and Takaaki Hatauchi, “Performance improvement of TCP over an ad hoc network by combining of data and ACK packets,” in Proceedings of The 5th Asia-Paci.c Symposium on Information and Telecommunication Technologies (APSITT 2003), pp.339-344, November 2003.

(3) Taichi Yuki, Takayuki Yamamoto, Masashi Sugano, Masayuki Murata, Hideo Miyahara, and Takaaki Hatauchi, “Improvement of TCP throughput by combination of data and ACK packets in ad hoc networks,” IEICE Transactions on Communications, January 2004.

(4) Taichi Yuki, “A study on data link layer control methods for performance improvement of TCP over an ad hoc network,” Master’s thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2004.

4.6.4 無線センサネットワークにおける実測に基づいた電力消費モデルの確立

センサネットワークでは、各無線端末は小容量のバッテリにより駆動されるため、消費電力を抑えてネットワークの稼働時間を延ばすことが重要である。従来のセンサネットワークに関する研究では、送信時の消費電力は通信距離のn乗に比例するという単純なモデルに基づいて、解析的な性能評価が行なわれてきた。しかし、実際の消費電力は、ハードウェアの構成やデータリンク層プロトコルに依存し、通信距離に関してもきわめて複雑な挙動を示すことが明らかになっている。そこで本研究では、クロスボー社のセンサネットワーク評価キットであるMOTEを用いてさまざまな環境での通信実験を行い、送信電力やパケットサイズを変化させた場合のパケット損失率を測定することで通信距離に関する特性を調べた。その結果、同じ送信電力でも通信距離は必ずしも一定にはならず、周囲の環境の影響を大きく受けることが明らかとなった。また、送受信の際の消費電力の変化を実測することで、MOTEにおける送信電力や通信距離に関して消費電力を定式化した消費電力モデルを導出した。さらに、その消費電力モデルと実測した通信距離特性に基づいて検討を行った結果、MOTEでは送信電力の設定値が小さい場合には送信時の消費電力がアイドル時の消費電力より少なくなるという特色があるため、送信電力はできる限り小さくした方がネットワーク全体の消費電力を抑えることができることが明らかとなった。

[関連発表論文]
(1) 上田健介, “無線センサネットワークにおける実測に基づいた電力消費モデルの確立,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2004.

4.6.5 CDMAセルラーネットワークにおけるソフトハンドオフの影響に関する研究

CDMA方式では、端末が複数の基地局と同時に接続するソフトハンドオフが可能であり、ハードハンドオフのような通信の瞬断を避けるなどの利点がある。その一方で、ソフトハンドオフによる干渉電力の増加や、ネットワークの有線部分の負荷の増大の影響を考慮する必要がある。本研究では、CDMA上でのデータ通信を対象とし、ソフトハンドオフがTCPのスループットに与える影響を明らかにした。シミュレーションにより、ネットワーク負荷などのパラメータに応じて、最適なソフトハンドオフマージンを調べた。また、端末がランダムに移動しハンドオフを繰り返す場合には、ソフトハンドオフによってコネクションの切断を避ける効果があることを示した。

[関連発表論文]
(1) Masashi Sugano, Liwei Kou, Takayuki Yamamoto, and Masayuki Murata, “Impact of soft handoff on TCP throughput over CDMA wireless cellular networks,” in Proceedings of IEEE Vehicular Technology Conference 2003 Fall (VTC2003 Fall), (Orlando), October 2003.

4.7 フォトニックネットワークアーキテクチャに関する研究

近年の光伝送技術の発展には目覚しいものがあり、WDM(波長分割多重)技術によってネットワークの回線容量は爆発的に増大してきた。しかし、光伝送技術とネットワーキング技術はおのおの別個の歴史を持ち、インターネットに適した光通信技術の適用形態については明らかになっていないのが現状である。短期的には、高性能・高信頼光パスネットワークがその中心技術になると考えられ、長期的な解としてはフォトニックネットワーク独自の通信技術を用いた分散かつオンデマンド型の光パスネットワークも十分に考えられる。本研究テーマでは、これらの点に着目した研究を進めている。

4.7.1 フォトニックインターネットにおける論理トポロジー設計手法に関する研究

次世代インターネットの基盤ネットワークとして、WDM技術に基づいたIP over WDMネットワークが有望視されている。このようなIP over WDMネットワークのアーキテクチャの一つとして物理トポロジー上に光パスを設定することで論理トポロジーを構築し、その上でIPパケットを転送するアーキテクチャが考えられている。本研究では、IP パケットを効率良く収容するための論理トポロジー設計手法を提案している。関連発表論文 (1) では、上位プロトコルがIPであることを考慮して、ノードへの負荷を軽減することでネットワークの平均遅延時間の最小化を目的とする論理トポロジー設計手法を提案した。また、論理トポロジー上でフロー偏差法を用いて経路を定めることによって、提案方式と従来方式との比較を行うとともに、経路の安定性の評価を行った。その結果、波長数が限定されている資源の場合において、提案手法による論理トポロジー設計が有効であることがわかった。関連発表論文 (2)では、光ファイバに導入される光ファイバ増幅器を考慮した、発見的手法に基づく論理トポロジー設計手法を提案している。提案アルゴリズムを論理トポロジー上での平均遅延時間、スループットおよび必要となる光ファイバ増幅器の数を比較し、設計された論理トポロジーに必要となる光ファイバ増幅器の数が減少することを示した。また、波長の多重数と1波長当たりの伝送帯域の積が一定であるとした上で、波長の多重数の違いがネットワークの性能におよぼす影響を明らかにし、その結果、波長の多重数を上げると収容可能なトラヒック量が増加することがわかった。

[関連発表論文]
(1) Junichi Katou, Shin'ichi Arakawa and Masayuki Murata, “A design method for logical topologies with stable packet routing in IP over WDM networks,” IEICE Transactions on Communications, Vol. E86-B, No. 8, pp.2350-2357, August 2003.

(2) Yukinobu Fukushima, Shin’ichi Arakawa, Masayuki Murata, and Hideo Miyahara, “Design of logical topology with effective waveband usage in IP over WDM networks,” submitted to OSA Journal of Optical Networking, October 2003.

4.7.2 フォトニックインターネットにおける設備設計に関する研究 (独立行政法人通信総合研究所との共同研究)

従来提案されてきたWDMネットワークの物理トポロジー設計手法では、将来発生するトラヒック量は既知と仮定して低コストのネットワークを構築している。しかし、実際には、トラヒック量を正確に予測することは困難である。本研究では、将来要求されるトラヒック量が不確定な状況で、収容可能なトラヒック量を最大にするWDMネットワークの設備設計手法を提案している。提案手法では、将来のトラヒック変動を推定し、推定したトラヒックを収容するために必要となるネットワーク設備を配置する。OXCおよび光ファイバを設計する設備の対象とし、ネットワーク設備設計問題をOXC配置問題とファイバ配置問題の部分問題に分けて解いている。提案手法により設計されたネットワークと冗長設計により設計されたネットワークを比較した結果、提案手法により設計したネットワークはすべての光パス設定要求を収容することができたのに対して、同じ数のOXCを導入した冗長設計により設計したネットワークでは二割程度の光パスが収容できないことを明らかにしている。

[関連発表論文]
(1) 福島行信, 原井洋明, 荒川伸一, 村田正幸, “トラヒック変動に対する耐性を備えたWDM ネットワーク設計手法,” 電子情報通信学会技術研究報告(PS2003-3), April 2003.

(2) Yukinobu Fukushima, Hiroaki Harai, Shin’ichi Arakawa, and Masayuki Murata, “Planning method of robust WDM networks against traffic changes,” in Proceedings of The 8th Working Conference on Optical Network Design and Modeling (ONDM 2004), pp.695-714, February 2004.

4.7.3 超高速光パス設定に関する研究 (大阪大学大学院工学研究科北山研究室との共同研究)

WDM技術を適用したデータ通信方式として、データ発生時に高速に波長を割り当て、データ転送を行う方式が考えられる。この方式は、データ発生時に送受信間に光パスを設定するため、効率的なデータ転送が可能となる。ただし、パス設定が完了してデータ転送が開始するまでの時間によって性能が大きく変わるため、パス設定の高速化が必要である。本研究では、波長割当時のオーバーヘッドを極限まで減らすことを目的として、光符号処理を利用したデータ転送方式を提案している。また、パス設定完了までの時間の短縮を目的とした光パス設定手法を提案する。具体的には、従来のパス設定手法を組み合わせることで往復伝搬遅延時間あたりに光パス設定を2 回試みることにより光パス設定の高速化を図っている。提案方式と従来方式の比較を計算機シミュレーションにより行い、その結果、光パスの保持時間が大きい場合に有効であることを明らかにしている。一方、保持時間が短い場合には、ノードにおける処理遅延時間による性能差が見られるものの、提案方式と従来方式には有意な差がないことがわかった。

[関連発表論文]
(1) Yosuke Kanitani, Shin’ichi Arakawa, Masayuki Murata, and Kenichi Kitayama, “High speed data transfer protocol using optical code processing in WDM networks,” in Proceedings of International Conference on Optical Communications and Networks, October 2003.

(2) 蟹谷陽介, 荒川伸一, 村田正幸, 北山研一, “WDM ネットワークにおける光符号処理を用いた高速データ転送アーキテクチャの提案,” 電子情報通信学会技術研究報告(IN2003-07), pp.1-6, July 2003.

(3) 蟹谷陽介, 荒川伸一, 村田正幸, 北山研一, “WDM ネットワークにおける波長予約に基づく光パス設定の高速化手法の提案,” 電子情報通信学会技術研究報告(PN2003-10), pp.27-32, October 2003.

4.7.4 フォトニックネットワークにおけるオンデマンド型光パス設定に関する研究

各ノードが自律的に光パスを設定する分散環境を対象とした光パス設定に関する研究では、ネットワークの波長利用状況に基づいて光パスの経路および波長を選択するための様々なアルゴリズムが提案されてきた。しかし、これらのアルゴリズムでは、光パス設定時に正確かつ詳細な波長利用情報を利用できるという仮定があった。現実にはネットワーク内の各リンクにおける波長利用情報を収集する機構が必要となる。一方、WDM技術に基づくフォトニックネットワークでは、光パス設定時にエンドノード間で波長予約を行う。そのため、経路選択時には正確かつ詳細な情報が利用できないとしても、波長予約の際に波長利用状況を収集することで効率良く光パスを設定できる可能性がある。本研究では、各ノードが分散して光パスを設定するWDMネットワークを対象とし、そのようなネットワークに適用可能な経路制御方式の比較検討を行っている。シミュレーションの結果、代替経路選択方式で最初に最短な経路を選択し、あとはより負荷の低い経路を選択するようなアルゴリズムを用いた場合、リンク利用情報を遅延無しに得られると仮定した場合と同等の性能が得られることがわかった。

[関連発表論文]
(1) Takahiro Toku, Shin’ichi Arakawa, and Masayuki Murata, “An evaluation of wavelength reservation protocol with delayed link state information,” to be presented at The 13th IEEE Workshop on Local and Metropolitan Area Networks, April 2004.

(2) 徳隆宏, 荒川伸一, 村田正幸, “WDM ネットワークにおける分散型経路制御方式の評価,” 電子情報通信学会技術研究報告(IN2003-42), pp.7-12, July 2003.

(3) 徳隆宏, 荒川伸一, 村田正幸, “ 分散型光パスネットワークにおける代替経路選択方式の評価,” 電子情報通信学会通信ソサエティ大会(発表予定), March 2004.

4.7.5 大規模フォトニックネットワークにおける棄却性能評価および改善に関する研究

現在のインターネットにおける AS (Autonomous System) 階層やルータ階層のトポロジーはべき乗則に従っているということが明らかにされている。一方、GMPLS (Generalized Multi--Protocol Label Switching) の標準化が進むにつれて、複数の WDM ネットワーク間で波長による回線(光パス)接続も検討されつつある。複数の WDM ネットワークが接続して構成される大規模な WDM ネットワークは、複数の AS が接続することにより構成されている Internet のトポロジーがべき乗則に従うように、べき乗則に従うと考えられる。しかし、WDM技術により構成された光ネットワークに関する過去の研究では、数十ノードから高々100 ノードからなる比較的小規模なネットワークが対象となっていた。本研究では、まず、WDM ネットワークにおいて、その物理トポロジーがべき乗則に従う時の特性について評価した。シミュレーションの結果、べき乗則に従う物理トポロジーにおける必要波長多重数は、指数分布に従う物理トポロジーにおける必要波長多重数よりもはるかに多くなることが明らかとなった。そこで、波長資源をより有効に利用し、棄却率を改善するため、quasi-static 光パス設定手法を提案した。この手法では、出線数の多いノードを通過するように波長の回線があらかじめ設定され、経路のホップ数に関する距離を、実際のホップ数よりも短くすることができる。計算機シミュレーションにより、この手法を適応した場合としない場合で性能評価を行った。その結果、本手法を用いることで、棄却率は 80%改善できることが分かった。

[関連発表論文]
(1) 石田晋哉, 荒川伸一, 村田正幸, “べき乗則に従うWDM ネットワークにおける論理トポロジー設計,” 電子情報通信学会技術研究報告(PN2003-27), December 2003.

(2) Shinya Ishida, “A study on the quasi-static lightpath configuration method in large-scaled WDM networks,” Master’s thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2004.

4.8 フォトニックパケットスイッチアーキテクチャに関する研究

パケットをそのまま光領域でスイッチングやフォワーディングを行うフォトニックパケットスイッチは、高速インターネットのためのインフラストラクチャを構成する重要な要素技術である。フォトニックパケットスイッチでは、スイッチ内の1つの出力線に対して同時に複数のフォトニックパケットが出力される場合に発生するパケットの競合によるパケット損失が問題となる。従来の電気領域におけるスイッチでは、RAM (Random Access Memory) を利用した蓄積交換技術によってパケット出力の時間的調整が可能となり、パケットの競合を容易に解決することができた。しかしながら、フォトニックパケットスイッチに関しては光領域におけるRAMは実用化されていないため、別のアプローチを考えることが必要となる。
 これを解決する手法として、光ファイバによる遅延線(FDL; Fiber Delay Line) を光バッファとして用いることによってパケットの競合を時間的に解決する光バッファリング(optical buffering)による手法、WDM における波長変換技術を利用して競合するパケットを別の波長に変換して同時に出力することを可能とする波長変換による手法などが研究されてきた。
 本研究では、高速なパケットスイッチング・フォワーディングを可能とするフォトニックパケットスイッチの構成技術を明らかにし、特に遅延線バッファの効率的な利用法に関する研究を進めている。

4.8.1 ファイバ遅延線を用いた光バッファのためのパケットスケジューリングに関する研究(大阪大学大学院工学研究科北山研究室との共同研究)

本研究では、仮想的にバッファサイズを拡大できるWDM技術に基づいたFDLを用いた、可変長パケットを扱う同期型フォトニックパケットスイッチの性能を明らかにした。すなわち、スイッチに対する入力としてWDMによって多重化されたパケットを扱い、スイッチング時におけるオーバーヘッドを低減するためにスイッチ内部において一定のタイムスロット間隔での同期をとり、パケットスイッチングを行うものとする。また、フォトニックパケットスイッチ内での競合に対しては、光バッファリングおよび波長変換を用いて解決することとする。ここでは、光バッファの利用方法によって2つのアーキテクチャを考える。つまり、スイッチ内のすべての出力線にスイッチングされるパケットを1つのFDLバッファで共有して蓄積する共有バッファ型、および各出力線ごとに設けられたそれぞれのFDLバッファに蓄積する出力バッファ型の2つのアーキテクチャを対象として、シミュレーションによる性能評価を行った。その結果、共有バッファ型アーキテクチャは、ネットワークの負荷が低い場合において、出力バッファ型アーキテクチャの1/入出力本数のFDLでも良い性能を示すことがわかった。逆に、出力バッファ型アーキテクチャは出力線ごとにFDLバッファを設置するため、ネットワークの負荷が高い場合においても共有バッファ型に比べ、パケット棄却を抑えたスイッチングが可能となることがわかった。
 次に、共有バッファ型スイッチでは負荷が高い場合にその性能が大きく低下することから、その問題を解決するために、パケット間空き領域低減手法を提案した。その結果、高負荷時においても安定した性能を示すことを明らかにした。さらに、パケットスケジューリングアルゴリズムのハードウェアでの実現性を考慮した上で、その動作シミュレーションを行うことにより、処理遅延時間の観点からその評価を行った。その結果、スケジューリングの際に扱う波長数が処理遅延時間に大きな影響を与えることを明らかにした。


[関連発表論文
(1) Takashi Yamaguchi, Ken-ichi Baba, Masayuki Murata, and Kenichi Kitayama, “Scheduling algorithm with consideration to void space reduction in photonic packet switch,” IEICE Transactions on Communications, Vol. E86-B, pp.2310-2318, August 2003.

(2) Ken-ichi Baba, Takashi Yamaguchi, Masayuki Murata, and Kenichi Kitayama, “Considerations on packet scheduling algorithms for photonic packet switch with WDM-FDL buffers,” in Proceedings of 29th European Conference on Optical Communication 2003 (ECOC2003), September 2003.

4.9 PhotonicGridアーキテクチャ

4.9.1 λコンピューティング環境における分散計算のためのメモリアクセス手法に関する研究

WDM技術を基盤としてインターネットの高速化を図る、いわゆるIP over WDMネットワークの研究開発が、現在さかんに進められている。また、それを一歩進めてWDM技術以外のさまざまなフォトニック技術を下位レイヤの通信技術としたGMPLSと呼ばれるインターネットのルーティング技術の標準化もIETFで進められている。さらに、フォトニックネットワークの真のIP化を狙って、フォトニック技術に基づいたフォトニックパケットスイッチに関する研究も始められつつある。しかしながら、これらの諸技術は現在のインターネット技術を是としている。すなわち、情報を扱う細粒度としてIPパケットを扱い、ネットワーク上でそれをいかに高速に運ぶかを研究開発の目標としている。そのため、パケット交換技術に基づいたアーキテクチャをとる限り、個々のコネクションに対する高品質通信の実現は非常に難しい。
 SANやグリッド計算など新しい応用技術では、高速かつ、高信頼な通信パイプをエンドユーザに提供する必要があり、そのためには、エンドユーザ間に大容量波長パスを設定し、ユーザに提供することが考えられる。すなわち、既設のファイバを利用し、あるいは必要に応じて、ファイバを新たに敷設し、ファイバおよびファイバ内に多重化された波長を最小粒度として情報の交換を行うフォトニックネットワークを構築することによって、超高速かつ高品質な通信パイプをエンドユーザに提供することが可能である。そこで、分散計算を可能とするλコンピューティング環境を提案している。ネットワークノードや計算機群を光ファイバで接続したネットワーク上に仮想チャネルをメッシュ状に張ることにより、高速チャネル上での分散計算が可能になる。さらには、仮想リングを構成し、リング上にデータを載せることによって、波長を仮想的な共有メモリとすることも可能である。その結果、広域分散システムにおける共有メモリと通信チャネルの区別の必要がなくなり、コンピュータ間の高速なデータ交換が可能になると考えられる。
 本研究では、分散計算を行う場合に、これらの技術のうちの一つである、各ノード計算機上に存在する共有メモリを高速にアクセスする手法を実装し、その性能を明らかにする。具体的には、日本電信電話株式会社フォトニクス研究所が開発している「情報共有ネットワークシステム(AWG-STAR)」を用いる。このシステムでは、各ノード計算機が波長可変光源を通じて光ファイバによりアレイ導波路回折格子 (AWG)と呼ばれるルータに接続され、物理的にはスタートポロジを、論理的にはリングトポロジを形成している。また、各ノード計算機は、共有メモリボードを塔載しており、共有メモリボード上のメモリは、AWG-STAR上でリングネットワークを構成している全ノード計算機で同一のデータを保持している。すなわち、このシステムはAWGルータと波長可変光源をベースとした動的な波長ルーティングを使用し、複数端末ノード計算機の共有メモリを共有する、多対多マルチキャストシステムである。
 本研究では、AWG-STARを用いた実験システム上で、実際のアプリケーションを動作させることにより共有メモリのアクセス手法の性能を明らかにしている。アプリケーションとして、分散計算のベンチマークとして利用されるSPLASH2を用いた。MPIを用いた従来のTCP/IPによる結果と比較することにより、共有メモリシステムおよびそのメモリアクセス手法の評価を行った。その結果、AWG-STARによる分散計算は、共有メモリへの書き込み回数に大きく依存し、現状ではボトルネックとなっていることがわかった。そこで、効率よく共有メモリへの書き込みを行うことでAWG-STARの性能を向上させることが可能であることを示した。


[関連発表論文]
(1) 谷口英二, “λコンピューティング環境構築のための共有メモリシステムの実装と評価,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2004.

4.10 ネットワークのモデル化と制御への適用手法に関する研究

インターネットにおいて品質の高いサービスを提供するためには、ネットワーク特性を十分に把握した上で、それに基づいたアプリケーション制御、アプリケーションシステム設計が必要になる。特に、従来のネットワーク設計手法論が単一キャリアを前提にした、閉じたものであったのに対して、インターネットにおいてはオープンな環境における設計が必要になっている。本研究テーマでは、このような考察に基づいて研究テーマに取り組んでいる。

4.10.1 DDoS 防御アルゴリズムの性能評価に関する研究(NTT未来ねっと研究所との共同研究)

近年頻繁に見られるようになったサービス拒否 (DoS: Denial of Service) 攻撃は、インターネット上に存在する特定のサイトに対して大量のパケットを送りつけることでそのサイトで提供されているサービスを利用できなくする、もしくはそのサービスの品質を著しく低下させるような行為を指す。DoS 攻撃は近年多様化・分散化し、その威力は増すばかりである。その中でも分散化した攻撃は特に DDoS (Distributed DoS) 攻撃と呼ばれており、現存するプロトコルに則ったものであるため、その効果的な防御策が確立されていない。特に、TCP の仕様を悪用したSYN Flood 攻撃は、簡単な方法で容易にサーバを停止状態にできることから、現在最も多く利用されている。SYN Flood 攻撃の検出は、SYN パケットの到着レートを用いて行うのが一般的であるが、到着レートは時刻により変化することから、通常トラヒックと攻撃トラヒックを明確に区別することは難しい。そこで本研究では、通常トラヒックの統計的性質を利用した、SYN Flood 攻撃の検出手法を提案する。提案手法では、トラヒックモニタを用いて正常トラヒックに対する到着レートの特性を統計的手法によりモデル化する。その結果に基づき、攻撃トラヒックの検出アルゴリズムを新たに提案する。トラヒック分析の結果、正常トラヒックの到着レート変動が正規分布によりモデル化できるのに対し、攻撃トラヒックを含んだ全体のトラヒックに着目すると、攻撃開始時において正規分布と大きく異なることが明らかとなった。このことを利用した攻撃アルゴリズムを実装し、実トラヒックを用いたシミュレーションを行った結果、提案検出アルゴリズムが実トラヒック内で攻撃に当たる部分をすべて検出し、かつ攻撃でない部分を攻撃と見なす誤検出が起こらなかったことを示した。以上のことから、提案手法がトラヒックの時間的変動を考慮しつつ、より明確に攻撃トラヒックを検出できることが示された。

[関連発表論文]
(1) Yuichi Ohshita, Shingo Ata and Masayuki Murata, “Detecting Distributed Denial-of-Service Attacks by Analyzing TCP SYN Packets Statistically,” submitted to IEEE GLOBECOM 2004, March 2004.

(2) 大下裕一, 阿多信吾, 村田正幸, “観測トラヒックの統計的性質を利用したDDOS Attack の検出方法,” 電子情報通信学会技術研究報告(IN2003-201), pp.23-28, February 2004.

4.10.2 インターネットの遅延特性とリアルタイムアプリケーションへの応用

インターネットアプリケーションにおける重要な通信品質特性としてパケット転送遅延が挙げられる。実際に、TCPやストリーミングアプリケーションにおいて通信品質を考慮した転送を行うには、パケット転送遅延時間の予測が必要であり、特にパケットロスを検知するためには、遅延分布のすその部分の特性を明らかにすることが重要となる。本研究では、まず測定ツールを用いてパケット転送遅延を測定し確率分布関数による分布のモデル化を行った。統計分析においては、特に分布のすその部分に着目し、時間帯による遅延特性の変化や確率分布のパラメータ推定のモデル化における精度も明らかにし、その結果、パレート分布が遅延分布のモデルとして最適であることを示した。さらに、統計分析の結果をストリーミングアプリケーションに適用し、ユーザの要求する通信品質を実現できるプレイアウト制御アルゴリズムを提案した。また、数値結果により提案アルゴリズムの有効性を示している。

[関連発表論文]
(1) Kouhei Fujimoto, Shingo Ata and Masayuki Murata, “Adaptive playout buffer algorithm for enhancing perceived quality of streaming applications,” to appear in Telecommunication Systems Journal, April 2004.

4.10.3 ピア・ツー・ピアサービスにおける検索性能向上のためのレプリケーション配置手法

近年、ピア・ツー・ピア (P2P) モデルによる多くのサービスが提供されている。P2P では、サービスに参加するホストはピアと呼ばれ、ピアが相互に接続して論理ネットワークを形成する。サービスの問い合わせや応答は論理ネットワークを通じて行われるため、論理ネットワークが安定して構成されることが重要となる。しかし、ピア同士により構成されるネットワークでは、ピアの参加や離脱によってその安定性が大きく変化する。このため、P2P では論理ネットワークの安定したサービス提供を考えることが重要となる。このような論理ネットワークの安定性向上に対して、レプリケーションと呼ばれる手法が提案されている。しかし、本来レプリケーションの効果は論理ネットワークのトポロジーに大きく依存するが、そのようなトポロジーを考慮したレプリケーション手法は考えられていない。特に、インターネットや P2P 論理ネットワークのトポロジーは、これまでの研究によりべき乗則に依存することが明らかとなっており、レプリケーションにもこれらの影響を考慮する必要がある。本研究では、論理ネットワークのトポロジー、特にべき乗則がレプリケーションに及ぼす影響をまず明らかにした。シミュレーションにより、隣接接続数の多いピアでは接続数の少ないピアの4倍の頻度でレプリカが作成され、さらに作成されたレプリカについては接続数の多いピアのレプリカが少ないピアの5倍の頻度で参照されていることが明らかとなった。これらの結果をもとに、べき乗則を考慮したレプリカ作成および検索を行う手法を新たに提案した。シミュレーションによる評価の結果、提案手法は従来手法の 60% の検索時間を実現し、検索性能を大幅に向上させることが分かった。

[関連発表論文]
(1) Shingo Ata, Masayuki Murata, and Yoshihiro Gotoh, “Replication methods for enhancing search performance in peer-to-peer services on power-law logical networks,” in Proceedings of SPIE’s International Symposium on the Convergence of Information Technologies and Communications (ITCom 2004), vol. 5244, (Orlando FL), pp.76-85, September 2003.

(2) Shingo Ata, Yoshihiro Gotoh, and Masayuki Murata, “Replication strategies in peer-to-peer services over power-law overlay networks,” in Proceedings of Asia-Pacific Network Operations and Management (APNOMS 2003), (Fukuoka Japan), October 2003.

4.10.4 べき乗則の性質を持つネットワークにおけるフラッディング手法に関する研究

フラッディングにより経路情報の配布もしくは交換を行う場合、ネットワークのノード数およびリンク数が増加するとともに経路制御情報交換のためのパケットの量が増大し、通信トラヒックへの影響が大きくなる。また、ノード障害時には隣接するすべてのノードからほぼ同時にフラッディングが行われるため、一時的な輻輳が生じる可能性が高くなる。その一方で、インターネットのトポロジー形状はべき乗則に従うことが近年明らかにされており、このトポロジーの形状の特徴を利用することで、経路情報交換に必要となるトラヒック量を大きく削減できる可能性がある。本研究では、経路情報の交換に必要となるトラヒック量の削減を目的として、スケールフリーネットワークに適したフラッディング手法を提案している。計算機シミュレーションによって評価した結果、従来のリンクステート型の経路制御方式に比べて経路情報交換に必要となるトラヒック量を最大で90%削減できることがわかった。

[関連発表論文]
(1) 牧野暢孝, “スケールフリーネットワークにおける経路制御のためのフラッディング手法の提案と評価,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2004.

5 社会貢献に関する業績

5.1 教育面における社会貢献

5.1.1 学外活動

(1) 鳥取環境大学「ネットワークI」「ネットワークⅡ」非常勤講師
  (以上、村田)

5.1.2 研究部門公開

(1) 2003年4月29日午後13:00-16:00まで、銀杏祭において研究部門公開を行い、35名の来訪者を得た。公開内容は次世代インターネット技術に関するもので、現在の数十倍~数百倍の速度を持つ超高速ネットワーク構築のための光技術を用いたネットワーク、そのネットワークを用いて高画質映像などのさまざまなマルティメディアコンテンツの転送、携帯電話等のモバイル機器を用いた高速ネットワークアーキテクチャ等に関する紹介を行った。
(2) 2003年11月21日12:00-16:00まで、待兼祭において、大学院情報科学研究科先進ネットワークアーキテクチャ講座の研究室公開を行い、75名の参加者を得た。次世代インターネットの実現に向けた最先端研究、次世代インターネットを実現するための技術課題、およびそれに対する当研究室の取り組みを紹介した。

5.2  学会活動

5.2.1 国内学会における活動

   (以上、村田)
   (以上、長谷川)

5.2.2 論文誌編集

    (以上、村田)
   (以上、長谷川)

5.2.3 国際会議への参画

   (以上、村田)
   (以上、長谷川)

5.2.4 学会における招待講演・パネル

   (以上、村田)

5.2.5 招待論文

該当なし。

5.2.6 学会表彰

該当なし。

5.3 産学連携

5.3.1 企業との共同研究

(1) 日本電気(株)「次世代インターネットのための高位レイヤスイッチング技術」
(2) 日本電信電話(株)NTT未来ねっと研究所「DoS攻撃トラヒックの統計的解析に関する研究」
(3) 日立製作所(株)「アドホックネットワーク応用センサネットワークシステムの研究」
(4) 富士電機(株)「アドホックネットワークプロトコルに関する研究」
   (以上、村田)

5.3.2 学外での講演

   (以上、村田)

5.3.3 特許

該当なし。

5.3.4 学外委員

(1) IT産学連携フォーラムOACIS実行委員会委員
   (以上、村田)

5.4 プロジェクト活動

(1) 通信・放送機構 委託研究 「光バーストスイッチングを用いたフォトニックネットワーク技術の研究開発」(平成13~17年度)分担

(2) 通信放送機構 創造的情報通信技術研究開発推進制度 「高速・高品質・高機能インターネットのためのフォトニックルータの研究開発」(平成13~17年度)代表

(3) 文部科学省 科学技術振興調整費 先導的研究等の推進 「モバイル環境向P2P型情報共有基盤の確立」(平成13~15年度)分担

(4) 文部科学省 科学技術振興調整費 新興分野人材育成 「セキュア・ネットワーク構築のための人材育成」(平成13~15年度)分担

(5) 文部科学省 科学研究費補助金 特定領域研究(2) 「Grid技術を適応した新しい研究手法とデータ管理技術の研究」(平成13~15年度)分担

(6) 総務省 戦略的情報通信研究開発推進制度 特定領域重点型研究開発 「ユビキタスインターネットのための高位レイヤスイッチング技術の研究開発」(平成14~16年度)代表

(7) 文部科学省 科学技術振興調整費 産学官共同研究の効果的な推進 「サイバーソサイエティを実現する仮想網技術」(平成 14 ~16年度)分担

(8) 文部科学省 科学研究費補助金 基盤研究(A)(1) 「フォトニックインターネットを実現する柔構造ネットワークインフラストラクチャの構築」(平成14~16年度)分担

(9) 文部科学省 21世紀COEプログラム 「ネットワーク共生環境を築く情報技術の創出」(平成 14 ~18年度)分担

(10) 総務省「新しいネットワークサービスを創出するIPv6エニーキャスト通信アーキテクチャの研究開発」(平成 15~17年度)代表

(11) 文部科学省 科学研究費補助金 基盤研究(A)(2)「サービスオーバーレイネットワークのためのインラインネットワーク計測技術の確立」(平成 15~17年度)代表
   (以上、村田)

(12) 通信・放送機構「インターネットにおける多ユーザ間の公平性に関する研究」(平成13~15年度)代表

(13) 文部科学省 科学研究費補助金 基盤研究(A)(2)「サービスオーバーレイネットワークのためのインラインネットワーク計測技術の確立」(平成 15~17年度)分担

(14) 総務省 戦略的情報通信研究開発推進制度 特定領域重点型研究開発 「ユビキタスインターネットのための高位レイヤスイッチング技術の研究開発」(平成14~16年度)分担
   (以上、長谷川)

5.5 標準化団体寄書

[1] Satoshi Doi, Ibrahim Khalil, Shingo Ata, Hiroshi Kitamura and Masayuki Murata, “IPv6 anycast functionality/terminology definition,” Internet Draft draft-ata-ipv6-anycast-resolving-01.txt, February 2004.

[2] Shingo Ata, Ibrahim Kalil, Hiroshi Kitamura, and Masayuki Murata, “Possible deployment scenarios for IPv6 anycasting,” Internet Draft draft-ata-anycast-deploy-scenario-00.txt, February 2004.

[3] Shingo Ata, Hiroshi Kitamura and Masayuki Murata, “A protocol for anycast address resolving,” Internet Draft draft-ata-ipv6-anycast-resolving-01.txt, February 2004.

2003年度研究発表論文一覧

学術論文誌
(1) Masahiro Sasabe, Yoshiaki Taniguchi, Naoki Wakamiya, Masayuki Murata, and Hideo Miyahara, “Proxy caching mechanisms with quality adjustment for video streaming services,” IEICE Transactions on Communications Special Issue on Content Delivery Networks, Vol. E86-B, pp.1849-1858, June 2003.

(2) Junichi Katou, Shin'ichi Arakawa and Masayuki Murata, “A design method for logical topologies with stable packet routing in IP over WDM networks,” IEICE Transactions on Communications, Vol. E86-B, No. 8, pp.2350-2357, August 2003.

(3) Takashi Yamaguchi, Ken-ichi Baba, Masayuki Murata, and Kenichi Kitayama, “Scheduling algorithm with consideration to void space reduction in photonic packet switch,” IEICE Transactions on Communications, Vol. E86-B, pp. 2310-2318, August 2003.

(4) Shinya Ishida, Shin’ichi Arakawa, and Masayuki Murata, “Reconfiguration of logical topologies with minimum traffic disruptions in reliable WDM-based mesh networks,” Photonic Network Communications, Vol. 6, pp.265-277, November 2003.

(5) Takayuki Yamamoto, Masashi Sugano, Masayuki Murata, Takaaki Hatauchi, and Yohei Hosooka, “Performance improvement of an ad hoc network system for wireless data service,” IEICE Transactions on Communications, Vol. E86-B, pp.3559-3568, December 2003.

(6) Taichi Yuki, Takayuki Yamamoto, Masashi Sugano, Masayuki Murata, Hideo Miyahara, and Takaaki Hatauchi, “Improvement of TCP throughput by combination of data and ACK packets in ad hoc networks,” IEICE Transactions on Communications, January 2004.

(7) Kouhei Fujimoto, Shingo Ata, and Masayuki Murata, “Adaptive playout buffer algorithm for enhancing perceived quality of streaming applications,” to appear in Telecommunication Systems Journal, April 2004.

(8) Satoshi Doi, Shingo Ata, Hiroshi Kitamura, and Masayuki Murata, “IPv6 anycast for simple and effective communications,” to appear in IEEE Communications Magazine, Internet Technology Series, May 2004.

(9) Go Hasegawa, Tatsuhiko Terai, Takuya Okamoto, and Masayuki Murata, “Scalable resource management for high-performance Web servers,” to appear in International Journal of Communication Systems, September 2004.

(10) Hiroaki Harai and Masayuki Murata, “Performance analysis of prioritized buffer management in photonic packet switches for DiffServ assured forwarding,” to appear in Photonic Communications, February 2004.

(11) Kazuhiro Azuma, Takuya Okamoto, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “Design, implementation and evaluation of resource management system for Internet servers,” submitted to Journal of High Speed Networks, October 2003.

(12) Takayuki Yamamoto, Masashi Sugano, and Masayuki Murata, “A low-latency routing in ad hoc networks for short-lived TCP connections,” submitted to IEICE Transactions on Communications, July 2003.

(13) Yukinobu Fukushima, Shin’ichi Arakawa, Masayuki Murata, and Hideo Miyahara, “Design of logical topology with effective waveband usage in IP over WDM networks,” submitted to OSA Journal of Optical Networking, October 2003.

(14) Hiroyuki Hisamatu, Hiroyuki Ohsaki, and Masayuki Murata, “Steady state and transient state behaviors analyses of TCP connections considering interactions between TCP connections and network,” submitted to International Journal of Communication Systems, November 2003.

国際会議会議録
(15) Takayuki Yamamoto, Masashi Sugano, and Masayuki Murata, “Routing in ad hoc networks for processing many short-lived TCP connections,” in Proceedings of ANWIRE 1st International Work-shop on Wireless, Mobile & Always Best Connected, April 2003.

(16) Masashi Sugano and Masayuki Murata, “Performance improvement of TCP on a wireless ad hoc network,” in Proceedings of IEEE Vehicular Technology Conference 2003 Spring (VTC 2003 Spring), (Cheju), April 2003.

(17) Ichinoshin Maki, Hideyuki Shimonishi, Tutomu Murase, Masayuki Murata, and Hideo Miyahara, “Hierarchically aggregated fair queuing (HAFQ) for per-flow fair bandwidth allocation in high speed networks,” in Proceedings of Internet Conference on Communication (ICC), vol. 3, pp.1947-1951, May 2003.

(18) Masayuki Murata, “Current status and future directions of photonic networks,” The Second TMRC (The Telecommunication Mathematics Research Center) 2003 Workshop, (Seoul, Korea), July, 2003. (Invited Talk).

(19) Satoshi Doi, Shingo Ata, Hiroshi Kitamura, Masayuki Murata, and Hideo Miyahara, “Protocol design for anycast communication in IPv6 network,” in Proceedings of 2003 IEEE Pacific Rim Conference on Communications, Computers and Signal Processing (PACRIM’03), (Victoria), pp.470-473, August 2003.

(20) Hiroyuki Hisamatu, Hiroyuki Ohsaki, and Masayuki Murata, “Modeling a heterogeneous network with TCP connections using fluid flow approximation and queuing theory,” in Proceedings of SPIE’s International Symposium on the Convergence of Information Technologies and Communications (ITCom 2003), pp.893-902, September 2003.

(21) Masahiro Sasabe, Naoki Wakamiya, Masayuki Murata, and Hideo Miyahara, “Scalable and continuous media streaming on Peer-to-Peer networks,” in Proceedings of Third International Conference on Peer-to-Peer Computing (P2P2003), pp.92-99, September 2003.

(22) Cao Le Thanh Man, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “A new available bandwidth measurement technique for service overlay networks,” in Proceeding of 6th IFIP/IEEE International Conference on Management of Multimedia Networks and Services Conference, MMNS2003, pp.436-448, September 2003.

(23) Ken-ichi Baba, Takashi Yamaguchi, Masayuki Murata, and Kenichi Kitayama, “Considerations on packet scheduling algorithms for photonic packet switch with WDM-FDL buffers,” in Proceedings of 29th European Conference on Optical Communication 2003 (ECOC2003), September 2003.

(24) Shingo Ata, Masayuki Murata, and Yoshihiro Gotoh, “Replication methods for enhancing search performance in peer-to-peer services on power-law logical networks,” in Proceedings of SPIE’s International Symposium on the Convergence of Information Technologies and Communications (ITCom 2004), vol. 5244, (Orlando FL), pp.76 - 85, September 2003.

(25) Go Yoshida, Naoki Wakamiya, Masayuki Murata, and Hideo Miyahara, “Dynamic organization of active video multicast in heterogeneous environment,” in Proceedings of Asia-Paci.c Conference on Communications 2003, vol. 2, (Penang), pp.150-156, September 2003.

(26) Shingo Ata, Yoshihiro Gotoh, and Masayuki Murata, “Replication strategies in peer-to-peer services over power-law overlay networks,” in Proceedings of Asia-Pacific Network Operations and Management (APNOMS 2003), (Fukuoka Japan), October 2003.

(27) Yoshiaki Taniguchi, Atsushi Ueoka, Naoki Wakamiya, Masayuki Murata, and Fumio Noda, “Implementation and evaluation of proxy caching system for MPEG-4 video streaming with quality adjustment mechanism,” in Proceedings of The 5th Association of East Asian Research Universities Workshop on Web Technology, pp.27-34, October 2003.

(28) Yosuke Kanitani, Arakawa Shin’ichi, Masayuki Murata, and Kenichi Kitayama, “High speed data transfer protocol using optical code processing in WDM networks,” in Proceedings of International Conference on Optical Communications and Networks, October 2003.

(29) Masashi Sugano, Liwei Kou, Takayuki Yamamoto, and Masayuki Murata, “Impact of soft handoff on TCP throughput over CDMA wireless cellular networks,” in Proceedings of IEEE Vehicular Technology Conference 2003 Fall (VTC2003 Fall), (Orlando), October 2003.

(30) Go Hasegawa, Haruki Tojo, and Masayuki Murata, “Realizing a network emulator system with intel IXP1200 network processor,” in Proceedings of 5th Asia-Paci.c Symposium on Information and Telecommunication Technologies (APSITT 2003), November 2003.

(31) Taichi Yuki, Takayuki Yamamoto, Masashi Sugano, Masayuki Murata, Hideo Miyahara, and Takaaki Hatauchi, “Performance improvement of TCP over an ad hoc network by combining of data and ACK packets,” in Proceedings of The 5th Asia-Paci.c Symposium on Information and Telecommunication Technologies (APSITT 2003), pp.339-344, November 2003

(32) Jiangang Shi, Naoki Wakamiya, Masayuki Murata, and Hideo Miyahara, “Active load distribution mechanism for P2P application,” in Proceedings of the 5th Asia-Pacific Symposium on Information and Telecommunication Technologies (APSITT’03), pp.235-240, November 2003.

(33) Masahiro Sasabe, Naoki Wakamiya, Masayuki Murata, and Hideo Miyahara, “Media streaming on P2P networks with bio-inspired cache replacement algorithm,” in Proceedings of The First International Workshop on Biologically Inspired Approaches to Advanced Information Technology (Bio-ADIT2004), (Lausanne), pp.80-95, January 2004.

(34) Naoki Wakamiya and Masayuki Murata, “Scalable and robust scheme for data fusion in sensor networks,” in Proceedings of the First International Workshop on Biologically Inspired Approaches to Advanced Information Technology, (Lausanne), pp.305-314, January 2004.

(35) Takahiro Toku, Shin’ichi Arakawa, and Masayuki Murata, “An evaluation of wavelength reservation protocol with delayed link state information,” submitted to The 13th IEEE Workshop on Local and Metropolitan Area Networks, January 2004.

(36) Yukinobu Fukushima, Hiroaki Harai, Shin’ichi Arakawa, and Masayuki Murata, “Planning method of robust WDM networks against traffic changes,” in Proceedings of The 8th Working Conference on Optical Network Design and Modeling (ONDM 2004), pp.695-714, February 2004.

(37) Yuichi Ohsita, Shingo Ata and Masayuki Murata , “Detecting distributed denial of service attacks by utilizing statistical analysis of TCP SYN packets,” submitted to IEEE GLOBECOM 2004, March 2004.

(38) Hiroaki Harai and Masayuki Murata, “Parallel and pipeline processing for output-buffer management in photonic packet switches,” submitted to OptiComm 2004, January 2004.

(39) Masayuki Murata, “Biology-Inspired Communication Network Control,” submitted to Self-Star Workshop, March 2004.

(40) Masayuki Murata, “A Perspective on Photonic Network Architecture,” submitted to OECC/COIN 2004, March 2004.

口頭発表(国内研究会など)
(41) 福島行信, 原井洋明, 荒川伸一, 村田正幸, “トラヒック変動に対する耐性を備えたWDM ネットワーク設計手法,” 電子情報通信学会技術研究報告(PS2003-3), April 2003.

(42) 長谷川剛, 村田正幸, “高速転送を可能とするTCP の輻輳制御方式,” 第13回インターネット技術第163委員会研究会, May 2003.

(43) 谷口義明, 上岡功司, 若宮直紀, 村田正幸, 野田文雄, “MPEG-4 動画像配信のための品質調整機能を組み込んだプロキシキャッシングシステムの実装と評価,” 電子情報通信学会技術研究報告(NS2003-45), pp.45-48, June 2003.

(44) 蟹谷陽介, 荒川伸一, 村田正幸, 北山研一, “WDM ネットワークにおける光符号処理を用いた高速データ転送アーキテクチャの提案,” 電子情報通信学会技術研究報告(IN2003-07), pp.1-6, July 2003.

(45) 徳隆宏, 荒川伸一, 村田正幸, “WDM ネットワークにおける分散型経路制御方式の評価,” 電子情報通信学会技術研究報告(IN2003-42), pp.7-12, July 2003.

(46) 原井洋明, 村田正幸, “出力バッファ型光パケットスイッチにおける並列バッファ管理方式,” 電子情報通信学会情報ネットワーク研究会, July 2003.

(47) 久松潤之, 大崎博之, 村田正幸, “リアルタイム系および非リアルタイム系輻輳制御の混在環境の解析,” 電子情報通信学会技術研究報告(IN2003-46), pp.25-30, July 2003.

(48) 笹部昌弘, 若宮直紀, 村田正幸, 宮原秀夫, “P2Pネットワークにおけるスケーラブルなメディアストリーミング機構,” 電子情報通信学会技術研究報告(NS2003-101), pp.71-76, September 2003

(49) 東和弘, 長谷川剛, 村田正幸, “インターネットサーバにおけるTCPコネクション資源管理手法の実装評価,” 電子情報通信学会技術研究報告(CQ03-50), pp.49-54, September 2003.

(50) 原井洋明, 村田正幸, “回線速度40Gbpsの128×128光パケットスイッチをサポートする計算量O(1)アルゴリズムによるバッファ管理方式,” 電子情報通信学会フォトニックネットワーク研究会, September 2003.

(51) 蟹谷陽介, 荒川伸一, 村田正幸, 北山研一, “WDM ネットワークにおける波長予約に基づく光パス設定の高速化手法の提案,” 電子情報通信学会技術研究報告(PN2003-10), pp.27-32, October 2003.

(52) 村田正幸, “次世代インターネットの研究の方向性,” 電子情報通信学会フォトニックネットワーク研究会, October 2003.(招待講演).

(53) 山崎康広, 村瀬勉, 長谷川剛, 村田正幸, “TCP中継における輻輳伝達制御方法と性能評価,” 電子情報通信学会技術研究報告(IN03-136), December 2003.

(54) 石田晋哉, 荒川伸一, 村田正幸, “べき乗則に従うWDM ネットワークにおける論理トポロジー設計,” 電子情報通信学会技術研究報告(PN2003-27), December 2003.

(55) 谷口義明, 若宮直紀, 村田正幸, “プロキシ協調型動画像配信システムの実装と評価,” 電子情報通信学会技術研究報告(IN2003-190), pp.13-18, February 2004.

(56) 大下裕一, 阿多信吾, 村田正幸, “観測トラヒックの統計的性質を利用したDDOS attack の検出方法,” 電子情報通信学会技術研究報告(IN2003-201), pp.23-28, February 2004.

(57) 村田正幸, “ネットワークQoSとその制御,” 電子情報通信学会コミュニケーションクオリティ研究会第1回QoSワークショップ, February 2004. (招待講演).

(58) 上村純平, 若宮直紀, 村田正幸, “センサネットワークにおける情報収集のための消費電力を考慮したクラスタリング手法,” 電子情報通信学会技術研究報告(発表予定), March 2004.

(59) 牧一之進, 長谷川剛, 村田正幸, 村瀬勉, “TCPオーバレイネットワークにおけるTCPコネクション分割機構の性能解析,” 電子情報通信学会技術研究報告(IN03-198), February 2004.

(60) Masahiro Sasabe, Naoki Wakamiya, Masayuki Murata, and Hideo Miyahara, “Cache replacement algorithm for P2P media streaming,” 電子情報通信学会総合大会(発表予定), March 2004.

(61) 東和弘, 長谷川剛, 村田正幸, “TCP コネクションのためのアクセスリンク資源管理方式,” 電子情報通信学会情報ネットワーク研究会(発表予定), March 2004.

(62) 侍建港, 若宮直紀, 村田正幸, “アクティブP2P ネットワークにおける検索負荷分散機構に関する研究,” 第20回IN/NS合同ワークショップ, March 2004.

(63) 若宮直紀, 村田正幸, “センサネットワークのための同期型センサ情報収集機構,” 電子情報通信学会技術研究報告(発表予定), March 2004.

(64) 徳隆宏, 荒川伸一, 村田正幸, “ 分散型光パスネットワークにおける代替経路選択方式の評価,” 電子情報通信学会通信ソサエティ大会(発表予定), March 2004.

解説・その他
(65) Shingo Ata, Hiroshi Kitamura and Masayuki Murata, “A protocol for anycast address resolving,” Internet Draft draft-ata-ipv6-anycast-resolving-01.txt, February 2004.

(66) Shingo Ata, Ibrahim Kalil, Hiroshi Kitamura, and Masayuki Murata, “Possible deployment scenarios for IPv6 anycasting,” Internet Draft draft-ata-anycast-deploy-scenario-00.txt, February 2004.

(67) Satoshi Doi, Ibrahim Khalil, Shingo Ata, Hiroshi Kitamura and Masayuki Murata, “IPv6 anycast functionality/terminology definition,” Internet Draft draft-ata-ipv6-anycast-resolving-01.txt, February 2004.

2003年度特別研究報告・修士論文・博士論文

博士論文
(68) Tutomu Murase, “Traffic control and architecture for high-quality and high-speed Internet,” Ph.D Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, pp.1-149, March 2004.

(69) 三部靖夫, “分散環境における適応符号化による動画像変換処理に関する研究,” 大阪大学大学院基礎工学研究科博士学位論文, March 2004.

修士論文
(70) K. Azuma, “A study on receiver-based management scheme of access link resources for QoS-controllable TCP connections,” Master’s thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2004.

(71) Shinya Ishida, “A study on the quasi-static lightpath configuration method in large-scaled WDM networks,” Master’s thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2004.

(72) Yoshiaki Taniguchi, “Design, implementation, and evaluation of proxy caching mechanisms for video streaming services,” Master’s thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2004.

(73) Satoshi Doi, “Design, implementation and evaluation of routing protocols for IPv6 anycast communication,” Master’s thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2004.

(74) Taichi Yuki, “A study on data link layer control methods for performance improvement of TCP over an ad hoc network,” Master’s thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2004.

(75) Cao Le Thanh Man, “A study on inline network measurement mechanism for service overlay networks,” Master’s thesis, Graduate School of Information Science, Osaka University, February 2004.

(76) Shi Jiangang, “Search load distribution mechanism for active P2P networks アクティブP2P ネットワークにおける検索負荷分散機構に関する研究,” Master’s thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2004.

卒業研究報告
(77) 上田健介, “無線センサネットワークにおける実測に基づいた電力消費モデルの確立,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2004.

(78) 樫原俊太郎, “センサネットワークにおける同期型センサ情報収集機構の実装と評価,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2004.

(79) 末次信介, “物理網構成を考慮したハイブリッド型P2P動画像ストリーミング配信機構の評価,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2004.

(80) 谷口英二, “λコンピューティング環境構築のための共有メモリシステムの実装と評価,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2004.

(81) 牧野暢孝, “スケールフリーネットワークにおける経路制御のためのフラッディング手法の提案と評価,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2004.

(82) 松永怜士, “IPv6 エニーキャストルーティングプロトコルPIM-SM の設計および実装,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2004.

(83) Insixiengmai Leuth, “サービスオーバーレイネットワークのためのインラインネットワーク計測手法の実装および評価,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2004.