業務及び研究の報告

情報メディア研究部門
Infomedelia Education Divison


1.部門スタッフ

教授 竹村治雄
略歴:1982年3月大阪大学基礎工学部情報工学科卒 業、1984年3月大阪大学大学院基礎工学研究科博士前期課程物理系専攻修了、1987年3月大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程物理系専攻単位取得退学。同年4 月株式会社国際電気通信基礎技術研究所入社(ATR)、エイ・ティ・アール通信システム研究所勤務。1992年4月同主任研究員。1994年4月奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科助教授。2001年4月より大阪大学サイバーメディアセンター情報メディア教育研究部門教授。 IEEE、ACM、SPIE、電子情報通信学会、情報処理学会各会員、日本バーチャルリアリティ学会、ヒューマンインタフェース学会各会員。

助教授 中西通雄
略歴:1978年3月大阪大学基礎工学部情報工学科卒業、1980年3月大阪大学大学院基礎工学研究科博士前期課程物理系専攻修了。同年4月三菱電機株式会社入社、1989年3月同社主事、1990年6月同社退社。同年7月大阪大学基礎工学部助手、1995年4月大阪大学情報処理教育センター助教授、2000年4 月より大阪大学サイバーメディアセンターー情報メディア教育研究部門助教授。AACE、情報処理学会、電子情報通信学会、教育システム情報学会各会員。

講師 北道淳司
略歴:1988年3月大阪大学基礎工学部情報工学科卒業、1990年3月大阪大学大学院基礎工学研究科博士前期課程物理系専攻修了、1991年7月大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程物理系専攻中退。同年8月同大学基礎工学部助手、1997年4月大阪大学大学院基礎工学研究科助手(組織改編のため)、1999年4月大阪大学情報処理教育センター講師。2000年4月より大阪大学サイバーメディアセンター情報メディア教育研究部門講師。電子情報通信学会、情報処理学会各会員。

助手 桝田秀夫
略歴:1992年3月大阪大学基礎工学部情報工学科卒業、1994年3月大阪大学大学院基礎工学研究科博士前期課程物理系専攻修了、1998年3月大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程物理系専攻修了。1998年4月大阪大学情報処理教育センター助手、2000年4月より大阪大学サイバーメディアセンター情報メディア教育研究部門助手。電子情報通信学会、情報処理学会各会員。

助手 大崎博之
略歴:1993年3月大阪大学基礎工学部情報工学科退学、1995年3月大阪大学大学院基礎工学研究科物理系専攻前期課程修了、1997年3月大阪大学大学院基礎工学研究科物理系専攻後期課程修了。同年4月大阪大学大学院基礎工学研究科情報数理系助手、1999年4月大阪大学情報処理教育センター助手。2000年4月より大阪大学サイバーメディアセンター情報メディア教育研究部門助手。IEEE、電子情報通信学会会員。

助手中村匡秀
略歴:1994年3月大阪大学基礎工学部情報工学科卒 業、1996年3月大阪大学大学院基礎工学研究科博士前期課程物理系専攻修了、1999年3月大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程情報数理系専攻修了。1999年5月より2000年3月までカナダ・オタワ大学ポスドクフェロー。2000年4月より大阪大学サイバーメディアセンター情報メディア教育研究部門助手。IEEE、電子情報通信学会各会員。

助手小川剛史
略歴:1997年3月大阪大学工学部情報システム工学科卒業、1999年3月大阪大学大学院工学研究科情報システム工学専攻博士前期過程修了、2000年3月大阪大学大学院工学研究科情報システム工学専攻博士後期過程中退。2000年4月より大阪大学サイバーメディアセンター情報メディア教育研究部門助手。IEEE、電子情報通信学会、情報処理学会、日本バーチャルリアリティ学会各会員。

2.教育および教育支援活動

本部門の主な教育支援業務は、http://www.cmc.osaka-u.ac.jp/j/shomu/kaiso.htmlに記載されているとおり、次の4つである。
以下、これら4つの教育支援業務について、平成13年度の活動内容と関連研究の成果を述べる。

2.1 高度な情報処理教育環境の構築

2.1.1 システム全体

 教育用計算機システムの利用者計算機では、基本ソフトウェアとしてTurbo Linuxを用いていた。しかし、今後のバグへの対応がターボリナックス社に期待できないこと、および、本部門の教員によってソースからの改変を伴う細かい対応をすることが大きな負荷になることから、平成13年度末に、Vine Linuxへ置き換えた。当初はこの移行に伴う細かな障害が発生したが、全員一丸となって対応をすすめており、連休明けには安定した運用に入れるものと考えている。
 また、3月には日本電気製の端末(パソコン)が約200台増えた。これまでデータステーション2Fでサービスしていた端末30台を撤去し、そこへ設置するとともに、吹田地区の新しい研究教育棟へも設置することになっている。この端末の基本ソフトはVine Linuxであるが、その上でVMware! を起動してWindowsMeも利用できるようにしている。データステーション2F の端末室は5月連休明けに、吹田地区の新棟は夏休み明けにオープンする予定である。
 サーバ計算機は概ね安定して稼働している。稀に発生する基本ソフトのAIXの不具合などへの対応や、無停電電源装置関連のトラブルへの対応を進めており、さらなる安定化を図っているところである。
 大規模な情報処理教育用コンピュータシステムの構築を通じて得た知見は、以下の論文として発表している。

「関連発表論文」

2.1.2 情報コンセントおよび無線LAN環境の提供

 教室や図書館などにおいて、利用者自身が持ち込んだノートパソコンを直接ネットワークに接続できるように、情報コンセントや無線LAN が配置されることが多くなってきている。このような情報コンセントを使用する際には、利用者認証が必須であり、これまでいくつかの方式が提案され一部が実際に運用されているが、VLANの設定が可能な高価なスイッチングHUBやノートパソコン用の専用ハードウェアが必要となる。また、MAC addressをあらかじめ登録しておく方式では、登録作業に手間がかかるという問題がある。
 本部門では、教育支援活動の一貫として、情報コンセントシステムの構築を進めている。PPPoEという通信プロトコルを用いることで、安価でセキュリティの高い情報コンセントおよび無線LAN サービス環境を構築できる。実証実験システムの詳細は、3.1.1で述べる。

2.1.3 各種ツールの開発・サイトライセンスの提供

 ログイン前のお知らせ表示や、プリンタ出力インタフェイスの提供、印刷枚数の制限機構、授業支援システムなどは、昨年度から引き続き提供している。今年度は、授業担当教員が教育用計算機システム外からシステム内のWebページにアクセスできるようなサービスを始めている。教育実習棟の入口の40インチプラズマディスプレイに表示するサブシステムを構築しており、各種の情報を提供している。
 また、学内向けに数式処理ソフトMathematicaのキャンパスライセンスの配布・管理サービスを担当してきた。さらに、かな漢字変換ソフトのWnn version7、および数式処理ソフトのMaple version7のサイトライセンスを購入し、来年度から学内に提供するための準備作業を進めている。

2.1.4 WebCTの提供

 昨年度から授業支援のシステムのWebCTについて検討してきたが、今年度末にその日本語版がリリースされたので早速購入した。WebCTは、世界の授業支援システムの半分のシェアを持つ有力なソフトウェアであり、日本でもいくつかの大学で導入が進められているが、まだ本格的には利用されていない。本部門では、関与している授業科目に率先してWebCTを利用してノウハウの蓄積につとめ、学内の授業等に利用いただけるように準備を進めている。

2.2 情報倫理教育

2.2.1 教育の実施

 本部門では、共通教育科目の「情報社会と倫理」の一部を担当している。受講学生(さまざまな学部の1 年生が中心)に情報倫理関連の課題を与えて調査させ、プレゼンテーションソフトを用いて発表させるという授業方法を試みた。受講学生はさまざまな学部の1年生が中心であったが、この試みは受講学生にたいへん好評であった。情報倫理やそれに関連する話題は、教官からの一方通行的な講義ではなく、学生自身に考えてもらうことが肝要である。

[関連発表論文]

2.2.2 教育内容の検討

 学内では、「情報社会と倫理」のほかに、「インターネットと法」「情報社会の法と倫理」「情報社会の諸問題」という3つの情報倫理に関連する科目も開講されている。これらの担当の先生方と一緒に、本学学生の一般教養としての情報倫理教育の在り方について議論していく必要がある。
 一方、電子情報通信学会では、ネットワーク運用ガイドラインの策定が進められており、3月の電子情報通信学会総合大会において、基礎・境界ソサイエティの特別企画として、「個人情報の利用と保護:学校等ネットワーク運用上の面から」を開催された。この検討メンバーとして参加している中西は、「セキュリティ教育と倫理教育のガイドライン」というタイトルで講演を行い、その後のパネル討論にパネリストとして参加した。また、ガイドラインの中間報告文書は、この会合において配布された。来年度も引き続き検討を行い、最終報告書は電気系三学会長の連名で発表される予定である。

2.3 ファカルティ・ディベロップメント

2.3.1 コースウェア開発

 今年度は機種更新直後であり、「情報活用基礎」の授業のために多くのWebページを積極的に作成してきた。これを核として、来年度は一般情報処理教育のためのコースウェアとして利用可能な形にしたい。

2.3.2 授業評価

 9月に「情報活用基礎」の受講学生による授業評価アンケートを実施した。昨年度は、回答用紙を配布して実施したので、回収後のデータ入力および集計に手間取ったが、今年度はWebベースの評価システムにより回答してもらい、すぐに集計結果を得ることができた。機能的には、学期末に限らず適宜授業でアンケートや小テストがオンラインで実施できるが、システムを提供する側での授業登録が手作業であるなどの問題が残っている。授業にフィードバックできるようにすることに意味があるので、来年度はWebCT利用するなども検討したい。

[関連発表論文]

2.3.3 情報処理教育研究会の実施

ファカルティ・ディベロップメントの一環として、情報処理教育研究会を情報処理教育センター時代から継続している。今年度は、12月19日と3月11日に研究会を開催した。実施内容は以下のとおり。
12月10日
  1. 「Pov-RayによるCG基礎教育の試み」…基礎工学研究科 才脇直樹
  2. 「蛋白質立体構造表示プログラム(Cn3D)について」…サイバーメディアセンター時田恵一郎
  3. 「ディジタル回路設計CAD. ツールの紹介」… サイバーメディアセンター北道淳司
3月11日
  1. 「WebCTの現状と高等教育用情報基盤の今後」…名古屋大学梶田将司
  2. 「Maple version7の概要と新機能」…サイバネットシステム株式会社 小城洋子
  3. 「VineLinux の日本語環境」…レッドハット株式会社 武井和久

2.4 情報処理教育の実施

2.4.1 学内の情報処理教育カリキュラムの開発

 平成12年度の共通教育機構カリキュラム委員会において、情報処理教育科目に情報科学や情報倫理関連の5つの授業科目を設置することを決定し、今年度から授業が実施された。「情報探索入門」や「情報社会と倫理」で受講者数が予想より少なかったが、この原因として、これらを卒業要件単位に含めていない学部があったこと、新設科目の趣旨や授業予定内容についての情報提供が不足していたことが考えられる。平成14年度からは、薬学部で卒業要件単位に含めて頂けるようになったが、さらに広く受講してもらえるように共通教育機構カリキュラム委員会等を通じて各学部へ働きかけていきたい。
 一方、平成15年度から高校で教科「情報」が必修科目となるので、この教育内容を確実に把握し、大学における情報処理教育の内容について今から考えておく必要がある。学習指導要領を見るまでもなく、高校での教育は、決してメール・ワープロ・表計算などの使い方といったコンピュータ利用技能教育ではない。しかし、コンピュータを用いた実習をすることになっているので、これまで大学で1ヶ月なり2ヶ月なりをかけて教えてきたこれらの入門的内容は、不要になると考えて間違いない。まもなく「情報」の教科書が各高校に配布され、採用の選定が行われる時期である。また、大学入試センター試験についても、「新指導要領で、新たに普通教育に関する教科として情報が設置され、必履修教科とされたため、その出題について配慮する」ことになっている 。
 上記は共通教育としての情報処理教育に関することであるが、理系の情報処理教育のあり方を考えることも重要である。コンピュータ実験科学研究部門および大規模計算科学研究部門と連係して、科学問題解決のための過程習得に関する新しい授業科目の検討や, 科学問題解決のための計算機応用に関することも検討する。
 さらにこれらをふまえて、大阪大学での情報処理教育をどういう方向に進めるべきか、学内に広く議論を呼び掛けていきたい。

2.4.2 「情報活用基礎」の実施

 情報処理教育科目の「情報活用基礎」について、文学部および人間科学部への出講を続けている。情報活用基礎のモデル授業であり、かつ高校での新教科「情報」での参考になるように、先進的・実験的授業をすべく毎年新しい試みに取り組んでいる。例えば、人間科学部での授業では、学期当初からのコンピュータ利用経験別クラス編成、および中間実技試験結果によるクラス再編成を実施して教育評価を行ったほか、コンピュータ不安についても統計データをとって分析している。また、両学部において、プレゼンテーションソフトウェアを用いた発表を学生に実施させるなどしている。これらの教育実践の詳細については、下記の論文を参照されたい。

[関連発表論文]

2.4.3 基礎セミナーなど

 本部門では、基礎セミナーの「UNIXプログラミング」を開講している。シェルプログラミング、perl言語によるCGIのプログラミング演習、perl/TK を用いたGUI(Graphical User Interface)構築方法演習などを行った。

2.4.4 その他

 本部門では、上記の授業のほかに、共通教育科目「情報探索入門」の一部を担当した(中西、北道)。
 このほか、伊丹北高等学校からの見学会、一般学生向け初心者講習会、留学生向け講習会、授業担当教官向け講習会などを開催した。

3.研究活動

 教育支援業務以外の研究は、主に部門としての研究、および各人の兼務先での研究に二分される。以下、詳細を述べる。

3.1 部門の研究

3.1.1 情報コンセントシステムの研究

 教育支援活動の一貫として、本部門では情報コンセントシステム(無線LANを含む)の構築の研究を進めている。PPPoE(PPP over Ethernet)という通信プロトコルを用いることにより、システムに登録された利用者アカウント(ログイン名とパスワードの組)を利用して、接続されたノートパソコンに対して利用者認証を行うしくみを開発した。高価なスイッチングHUBは必要とせず、Mac addressの登録も不要である。さらに、また、サーバアプリケーションから、アクセス元のノートパソコンの利用者をIDENTプロトコルを用いて識別できる方式も実装して動作を確認した。現在、豊中教育実習棟1F講師準備室で情報コンセントをサービスしており、6月からは、厚生棟4Fの生協食堂において無線LANシステムの実証実験を開始する。

[関連発表論文]

3.1.2 情報処理教育の在り方についての検討

 2.4で述べたように、平成18年には高校で教科「情報」を受講した学生が大学に入学してくる。これに対応するために、文部科学省は平成13年度に、「大学等での一般情報処理教育の在り方」について、情報処理学会へ研究委託を行った(一般情報処理教育とは、情報工学などを専門としない学生に対する情報処理教育を言う)。この委託研究に本センターから中西が参加している。
 研究グループは、3月16日に一ツ橋講堂においてシンポジウムを開催し、直前のアナウンスにもかかわらず150名余りの参加者を得た。報告書は、今年度末に文部科学省へ提出済みであり、平成14年10月の情報処理教育研究集会において冊子体で配布されるとともに、Webページで公開される予定である。

3.1.3 複合現実感を用いた情報提示環境に関する研究

 現実環境に種々な情報を重畳提示する複合現実環境に関する研究を実施している。具体的には,屋内環境で広範囲に複合現実感を用いた情報提示を実現するための手法として,赤外線マーカを用いた位置検出手法および図形マーカを用いた位置検出手法について研究を実施している。前者は,IrDAプロトコルで発信する赤外線マーカを複数配置し,これを赤外線ステレオカメラとIrDAデバイスで追跡し利用者の位置をマーカのIDとステレオ計測に基づいて推計する。また, 後者は,屋内の天井に配置された複数の図形マーカをCCDカメラで撮影し,得られうマーカIDとマーカに対する相対的な3次元位置に基づいて利用者の位置を推定する。本年度はこれらの方法の実装と予備的な精度評価を実施した。このような環境は教育メディアとしての利用も期待できる。
 本研究の一部は科学研究費補助金および科学技術振興財団より研究費を得ている.また,一部は奈良先端科技術大学院大学と共同で実施した。

[関連発表論文]

3.1.4 連続動画像から3次元モデル復元に関する研究

 サイバースペース空間の構築には、現実環境の仮想化が不可欠である。このため、本研究では屋外建築物のような実環境中の物体を撮影した連続動画像中に存在するあらかじめ三次元位置が既知のマーカを追跡し,同時に画像中の自然特徴点を追跡することで連続動画像撮影時のカメラパラメタを推定する。そして、推定されたカメラパラメタの基づいてマルチベースラインステレオ方により対象物体の密な距離画像を生成し、これを用いて復元対処物体の3次元モデルをボクセル表現で生成するアルゴリズムを開発した。また、開発したアルゴリズムを用いて復元実験を実施し、実際に3次元復元が可能なことを確認した。一方では、 ボクセルモデルによる表現のためデータ量が大きいため、リアルタイムで表示ができない。このため、今後ポリゴンモデルへの変換手法等について検討する必要がある。このような,既存環境の3次元化により,古墳やピラミッドなどの3次元モデル化も可能であり、 マルチメディアを用いた教育への応用も考えられる。
 本研究の一部は、経済産業省の次世代バーチャルリアリティ等推進授業の一部として実施した。

[関連発表論文]

3.2 兼務先での研究

3.2.1 ハードウエアの形式的検証および動的再構成可能アーキテクチャに関する研究

 ハードウエアの製造技術の向上により、微小な半導体素子を形成することができ、設計自動化ツールの充実により、大規模システムを一つのLISチップに実現することが可能となってきている。設計過程において、回路合成に要する時間の短縮が実現されたのに対する回路検証に要する時間の比率が大きくなってきている。本研究ではとくに回路設計の高位における形式的検証を取り扱っている。また、今後より大きなシステムのハードウエア化が望まれるが、小さなハードウエアを用いて大規模システムを実現する方法の一つとして、動的再構成アーキテクチャが知られている。動的再構成ハードウエアは、そのチップ内の構成(配線、回路の機能など)を変更しながら必要な動作を行うことが可能である。本研究では、動的再構成アーキテクチャを有効に活用し大規模システムを実行可能にする設計自動化アルゴリズムを提案・実現している。

・ハードウエアの形式的検証に関する研究

 ハードウエアの設計は、要求仕様から回路記述言語を用いて階層的に具体化される。各段階の設計に対して、設計が正しいことを保証する検証がそれぞれ行われるが、設計の自動化が進められていることに対して、検証作業は十分とはいえない。また、あらゆる情況に対して回路動作を検証しなければ設計にバグ(誤り)があるかどうか確かめることはできない。形式的検証は、数学的にあらゆる場合に対して回路が正しく動作するかを検査する方法である。本研究では、多くのフリップフロップの並びであるレジスタを0,1に対応する論理変数を複数個用いて表すのではなく、整数変数一つを用いて表現し、回路動作を整数からなる式で表現することにより回路動作を抽象的に表現し、あらゆる場合に対する回路動作を効果的に検査する方法を提案。実現している。

[関連発表論文]

・動的再構成可能アーキテクチャに関する研究

 動的再構成可能アーキテクチャの一つとして、チップの中に回路の構成情報を複数保持し、それを切り替えることにより回路動作を変更するというマルチコンテキストFPGAが知られている。マルチコンテキストFPGAはまた、回路の動作中に、使用していない構成情報を外部から変更することが可能で、理想的には極めて大きなシステムを小さな回路で実現できる可能性を持つ。
 しかし、これは回路の構成情報を効率良く実行し、かつ外部から変更しやすいようにシステム全体を小さな部分システムに分割しなければならない。本研究ではこの問題を定式化し、分割を実行するアルゴリズムを提案・実現している。

[関連発表論文]

3.2.2 ネットワークにおけるフィードバックメカニズムの解明に関する研究

 ネットワークの高速化、効率化の中心技術となるのが輻輳制御である。旧来の電話交換網における輻輳制御では、アーラン呼損式を核とするトラヒック理論がその理論的な支柱となってきた。一方、インターネットに代表されるコンピュータネットワークにおいては、待ち行列理論が古くから輻輳制御設計を解決するものとされてきた。しかしながら、インターネットにおいては、エンド間トランスポート層プロトコルであるTCP がネットワークの輻輳制御の役割も担っている。TCP は基本的にフィードバックメカニズムに基づくものであり、従来の待ち行列理論に代表されるマルコフ理論が意味をなさないのは自明である。本研究テーマでは、そのような考え方に基づき、ネットワークの輻輳制御の解明を目指した研究を進めている。

(1)トランスポート層プロトコルのフィードバックメカニズムに関する研究

 パケット交換ネットワークにおいて、データ転送系のサービスを効率的に収容するためには、フィードバック型の輻輳制御が不可欠である。フィードバック型の輻輳制御では、ネットワークからのフィードバック情報に応じて、送信側ホストからのトラヒック流入量を動的に制御する。これにより、ネットワーク内部でのパケット棄却を防ぐとともに、網資源の有効利用が可能となる。現在、広く普及しているTCP/IPネットワークでは、フィードバック型の輻輳制御として、ウィンドウ型のフロー制御方式であるTCP が用いられているが、その改良に関する研究も盛んに行われている。なかでも、高い性能を示すものとしてTCP Vegasが最近注目されている。本研究では、TCP Vegasをもとにしたウィンドウ型のフロー制御方式を対象とし、その安定性と過渡特性を、制御理論を用いて明らかにした。さらに、解析結果に基づいて、制御パラメータの最適化制御を行うことによってシステムの性能が大幅に改善されることを示した。
 さらに、本研究では、多段接続されたネットワークにおいて、ネットワーク中に複数のボトルネックリンクが存在する場合を対象とした解析を行った。まず、定常状態における送信側ホストのウィンドウサイズや、ボトルネックリンクへ向かうバッファのバッファ内パケット数を導出した。さらに、定常状態におけるTCPコネクションのスループットを導出し、ウィンドウ型フロー制御方式の制御パラメータが、TCPコネクション間の公平性にどのような影響を与えるかを明らかにした。また、現代制御理論を適用することにより、ウィンドウ型フロー制御方式の制御パラメータと、ネットワークの安定性および過渡特性の関係を定量的に明らかにし、その結果、経由するボトルネックリンク数の少ないTCPコネクションが、ネットワークの安定性を決定することを明らかにした。
 これに加えて、流体近似法および待ち行列理論を組TCP Renoみ合わせることにより、TCP Renoのフィードバック型輻輳制御機構をモデル化した。これまで、さまざまな研究者らによってTCPの解析が行われてきた。従来の研究では、ネットワークにおけるパケット棄却率を一定と仮定し、この時のTCPの平均的な特性を解析したものがほとんどであった。しかし現実のネットワークでは、TCPのウィンドウサイズが変化すれば、それによってネットワークにおけるパケット棄却率は変化する。そこで本研究では、TCPの輻輳制御機構とネットワークをフィードバックシステムとしてモデル化し、TCPの過渡特性を解析した。つまり、TCP はネットワークでのパケット棄却率を入力とし、ウィンドウサイズを出力とするシステムとしてモデル化した。一方、ネットワークはTCPのウィンドウサイズを入力とし、パケット棄却率を出力とする一つのシステムとしてモデル化した。得られたモデルに対して過渡特性解析を行い、バックグラウンドトラヒックの量やTCPのコネクション数などによって、TCPの過渡特性がどのように変化するかを定量的に明らかにした。

[関連発表論文]

(2)ネットワーク層プロトコルのフィードバックメカニズムに関する研究者

 近年、TCPの輻輳制御機構を補助するために、ルータにおける輻輳制御機構がいくつか提案されている。それらの中で、現在もっとも有望と考えられ、実装されつつあるのは、ルータにおいて意図的にパケット棄却を発生させるRED(Random Early Detection)ゲートウェイである。しかし、これまでREDゲートウェイの特性は十分には明らかにされていない。本研究では、TCPによってフロー制御されたトラヒックに対する、REDルータの定常状態特性を解析した。まず、定常状態におけるTCPのウィンドウサイズや、ルータのバッファ内パケット数を導出した。また、制御理論を適用することにより、ネットワークの安定条件および過渡特性をあらわす性能指標を導出した。さらに、数値例およびシミュレーション結果により、REDルータの制御パラメータと安定性との関係を明らかにした。その結果、(1)REDルータ のバッファ占有量は、ほぼmaxp(maximum packet marking probability)によって決まること、(2)TCPのコネクション数やネットワークの帯域・遅延積が大きくなるにつれ、ネットワークがより安定すること、(3)過渡特性を最適化するためには、minth(miniumum threshold) を慎重に決める必要があること、などが明らかになった。
 さらに本研究では、REDゲートウェイの定常特性だけでなく、過渡特性に関しても解析を行った。つまり、TCPのコネクション数が変動した場合に、REDゲートウェイの過渡特性にどのように影響を与えるかを解析した。ネットワーク全体をフィードバック系のシステムととらえ、コネクション数の変動と、REDゲートウェイの過渡特性の関係を、制御理論を適用することにより解析した。その結果、REDゲートウェイの過渡特性を向上するために、REDゲートウェイの制御パラメータをどのように設定すればいいかを明らかにした。

[関連発表論文]

(3)インターネットのエンド間遅延特性のモデル化に関する研究

 インターネットにおける、エンド・エンド間のパケット伝送遅延特性を知ることは重要である。これは、(1) パケット伝送遅延特性がリアルタイムサービスのQoS (サービス品質)に直接影響を与えること、また、(2)リアルタイムおよび非リアルタイムアプリケーションに対して、効率的な輻輳制御機構の設計が可能になること、などによる。本研究では、インターネットのパケット伝送遅延特性をモデル化する、新しい手法を提案した。提案手法の中心となるアイディアは、ある送信側ホストからみたネットワーク全体をブラックボックスとして扱い、パケット伝送遅延特性を、制御工学の分野で広く用いられているシステム同定理論を用いてモデル化するというものである。送信側ホストから見たパケット伝送遅延特性をSISO ( 1入力1出力)システムとしてモデル化し、送信側ホストからのパケット出力間隔をシステムへの入力とし、送信側ホストで観測した往復伝搬遅延がシステムからの出力とする。本研究では、ARXモデルを用いて、そのパラメータをシステム同定理論により決定した。また、ARXモデルの次数決定方法についても議論を行った。モデルを用いることにより、パそれらの結果、ARXケット伝送遅延特性が十分にモデル化できること、また、モデルの誤差を小さくするために、ARXモデルの次数を適切に選択する必要があることなどを明らかにした。
 さらに、システム同定に用いる入出力データとして、一定のサンプリング周期ごとに測定した、送信側ホストからのパケット送信レート、およびラウンドトリップ時間の平均値を用いることにより、モデル精度LAN環が向上できること示した。LAN環境およびWAN環境で実際に測定した入出力データを用いてモデル化を行い、ラウンドトリップ時間の変動がどの程度正確にモデル化できるかを明らかにした。その結果、LAN環境では、ほぼ正確にラウンドトリップ時間の変動をモデルできることを示した。また、WAN環境では、ボトルネックリンクが少数のユーザで共有されている場合、ラウンドトリップ時間の変動をうまくモデル化できることを示した。

[関連発表論文]

3.2.3 自己安定アルゴリズムに関する研究

 自己安定アルゴリズムは、分散システムに故障耐性を持たせる為のパラダイム一つである。自己安定プロトコルは、任意のシステム状況から動き始めても、望ましい状態に収束させることができ、また、任意の一時故障に耐性を持っていることが知られている。我々のグループでは、いくつかの分散システム上のアルゴリズムに対して、自己安定プロトコルが存在するのか、また効率の良いプロトコルが存在するのか、さらに故障封じ込めなどの故障耐性に関する評価尺度についてはどうかなどを研究している。本年度は、PIF(Propagation of Information with feedback)と呼ばれる、分散システム上で情報を散布してその結果を収集する問題に関して、自己安定な性質を持たせたpipelined PIFという問題に対するプロトコルを提案した。

[関連発表論文]

3.2.4 通信サービス競合

 通信サービス競合は、単体では正常に動作する通信サービスを複数同時に実行した際に生じる機能競合であり、新規サービスの迅速な開発の障害となっている。サービス競合の検出・解消は、解析すべきサービスの組み合わせ数の増大、個々のユーザの並列性から生じる状態爆発などの要因から、非常に困難な問題として知られており、現状では試行錯誤に基づいたan hocな対策がとられている。本研究では、サービス競合を検出するための体系的な方法(形式手法・ヒューリスティックなど)を開発するとともに、VoIPやWebサービスなど次世代サービスにおける競合問題についての議論も進めている。

[関連発表論文]

3.2.5 Web上の仮想空間構築技法に関する研究

 仮想空間を用いて,遠隔地にいる人々のコミュニケーションや協調作業を支援する研究が盛んに行われている.一般に現実空間のように物体の多いリアルな仮想空間を構築するためには,非常に多くのコストが必要となるだけでなく,その仮想空間を利用する計算機にも高い計算能力が要求される.本研究では,リアルな仮想空間を低コストで構築する手法を開発するとともに,構築した仮想空間を利用した応用システムの開発を進めている.

4.社会貢献活動

4.1 学会活動

4.1.1 国内学会

 電子情報通信学会 ヒューマンコミュニケーショングループ 企画幹事,同 マルチメディア仮想環境専門委員会委員,情報処理学会 グループウェアとネットワークサービス研究会運営委員,ヒューマンインタフェース学会 会誌担当理事, 日本バーチャルリアリティ学会 総務担当理事,同 複合現実感研究専門委員会幹事,映像情報メディア学会 会誌編集企画幹事,日本バーチャルリアリティ学会論文誌複合現実感特集編集委員(竹村) 情報処理学会コンピュータと教育研究会運営委員, 情報処理学会情報教育シンポジウムプログラム委員, 電子情報通信学会「組織内ネットワーク運用ガイドライン検討WG」委員(中西)

4.1.2 国際会議

以下の会議に記載の委員として参加している(竹村)

4.1.3 招待講演・パネル

4.2 社会人再教育

4.3 地域貢献活動

4.4 研究プロジェクトへの参加

5.発表論文一覧

5.1 著書

5.2 学術論文誌

5.3 国際会議会議録

5.4 シンポジウム等(査読のあるもの)

5.5 シンポジウム・研究会(査読なし)

5.6 全国大会など

5.7 その他

5.8 特別研究報告(卒業研究報告)