利用者報告

二次元フォトニックバンドギャップ導波路の特性制御の検討

木下 武・飯田 幸雄・大村 泰久
(関西大学ハイテクリサーチセンター、関西大学 工学部)


1.はじめに

 フォトニック結晶(PC)1)とは、光の波長程度の周期で媒質の誘電率が変化する人工結晶である。PCは、誘電率変化の周期に対応する周波数帯の電磁波の伝搬を抑止するフォトニックバンドギャップ(PBG)をはじめとし、スーパープリズム現象、群速度異常、ゼロ分散条件、負屈折率などの特有な光学特性を持っている2)。また、PCの誘電率周期に乱れ(欠陥)を導入することにより、欠陥に特有の伝搬モードをPBG内に実現することが出来る3)。これらの伝播特性を利用することにより、従来の手法では実現が困難であった光学集積回路(PIC)における低損失での、急峻曲がり、分配器、結合器などが実現可能であると考えられており4)、PCの研究は非常に盛んである。三次元PCは全ての方向に対してPBGを持つ点において有用ではあるが、製作に高度な精度を要するなど課題が多い。PICの機能素子としてPCを用いる場合には、製作に比較的な容易な二次元PC、あるいは二次元周期構造のスラブを低屈折率の媒質で挟んだ擬二次元PCによるPC導波路で十分であると考えられる。しかしながら、キャビティ(矩形空気孔)サイズなどの構造パラメータがPBG特性に与える影響については十分に明らかになっていない。
 本研究では、有限な幅を持つ光導波路中に二次元PCを導入した二次元PC導波路における構造パラメータがPBG特性に与える影響について、FDTD法5)を用いた電磁界シミュレーションにより調べる。

2.導波路構造とシミュレーション方法

 図1に、幅が0.48 ?mのシリコン・コアの周りを0.5 ?mのSiO2で囲んだ光導波路を示す。ここでは、紙面に垂直な方向に対して一様に広がっている二次元導波路構造とした。この光導波路のシリコン・コア部の縦(x)、横(y)方向に対して、周期的に配列したキャビティを導入することにより、二次元PCを形成する。x方向に対して中央のキャビティ1列(図1中の点線部)を抜き、これを欠陥とした。FDTD法の解析単位セルの寸法は、?x=?y=5 nmとし、吸収境界としてPerfect Matching Layer(PML)6) を配置した。入力光波長は1.55 ?m(193THz)とし、ガウスパルスを正弦波で変調したパルス光を励震源に用いた。透過、反射係数を計算するために入出力に配置した観測面は、励振源、吸収境界の影響を受けないように十分な距離を取った。キャビティを導入していない場合にこの光導波路が安定に伝搬する周波数範囲は、90~270THzであった。以下の議論では、この周波数範囲に注目する。

3.構造パラメータの影響

3.1 構造パラメータの基準

 完全に二次元なPCにおいては、座標空間と電磁波の角周波数の規格化により、広い周波数範囲にわたって一般的にPBGを議論できるが、図1に示したような幅の有限な導波路中に形成されたPCにおいては、この議論は成り立たない。そのため、構造パラメータとして、縦方向の格子定数ax、横方向の格子定数ay、縦方向のキャビティサイズdx、横方向のキャビティサイズdy、欠陥長ddef、キャビティ数を選んだ。基準値はax=330 nm、ay=135 nm、dx=200 nm、dy=60 nm、ddef=460 nmとしている。

3.2 キャビティサイズの影響

 縦方向(x方向)のキャビティサイズdxを変化させた場合の反射係数を図2(a)に示す。他のパラメータは、ax=330nm、ay=135nm、dy=60nm、ddef=460nmに固定した。dxが増加するにつれて、PBGは高周波側にシフトし、PBG幅は増加する。それに対し欠陥モード周波数は、dx=0.6ax~0.8ax(200~265nm)の範囲において変化しない。PBGの反射係数は、dx=0.58a~0.7aの範囲で最も高い。dxが0.55axより減少、もしくは0.7axより増加すると、PBGの反射係数は減少する。
 次に、横方向(y方向)のキャビティサイズdyを変化させた場合の反射係数を図2(b)に示す。他のパラメータは、ax=330nm、dx=200nm、ay=135nm、ddef=460nmに固定した。dyが増加につれて、PBGは高周波側にシフトし、縦方向に比べて少量ではあるがPBG幅は増加する。欠陥モード周波数もPBGと共に高周波側にシフトするが、その反射係数は悪化(増加)する。PBGの反射係数は、dy=0.3ay~0.44ayの範囲で最も高い。dyが0.3ayより減少、もしくは0.44ayより増加すると、PBGの反射係数は減少する。
 縦、横方向のいずれの場合においても、キャビティサイズが増加するにつれて、PBGは高周波側にシフトし、PBG幅は増加する。これは、キャビティサイズが増加することにより、二次元PC導波路の平均誘電率が減少するためである7)。



3.3 格子定数の影響

 縦方向の格子定数axを変化させた場合の反射係数を計算した。ax=330nm、360nm、410nmと変化させ、ddefをそれぞれ430nm、510nm、550nmとした場合の反射係数を図3(a)に示す。他のパラメータは、ay=135nm、dy=60nm、dx : ax=0.7 : 1に固定した。格子定数axを増加させることにより、それに対応する周波数が減少するため、PBGは低周波側にシフトする。欠陥モード周波数も共に低周波側にシフトする。
 同様に横方向の格子定数ayを変化させた場合の反射係数を図3(b)に示す。他のパラメータは、ax=330nm、dx=200nm、ddef=460nm、dy: ay=0.4 : 1に固定した。ayが増加するにつれて、PBG幅はその低周波側が減少し、高周波側が増加する。欠陥モード周波数は、ayの増加につれて、高周波側にシフトする。ayが135~160nm(シリコン・コア幅に対して格子定数が28.1~33.3%)の場合に最もPBG幅が広がる。



3.4 欠陥長の影響

 欠陥長ddefを変化させた場合の反射係数を図4に示す。他のパラメータを、ax=330nm、dx=200nm、ay=135nm、dy=60nmに固定した。ddefが増加するにつれて、欠陥モード周波数は低周波側にシフトする。欠陥モード周波数と比較するとわずかではあるが、PBGもddefが長くなるにつれて低周波側にシフトする。
 ddefが10nm増減すると、欠陥モード周波数は2~3THz(波長では15~20nmに相当)増減する。
 ただし、キャビティの列を1列抜いた状態の欠陥長(上記の様に構造パラメータを固定した場合は、460nm)から大きく変化させる場合には、欠陥モード周波数のピーク値において、透過係数と反射係数の間で1THzのずれが発生することがある。

4.まとめ

 本研究では、二次元PC導波路の構造パラメータが、PBG特性に与える影響について、FDTD法によるシミュレーションにより考察した。主たる影響は、擬一次元PC導波路と同様であるが、キャビティサイズの増加におけるPBG幅の増加、および、より広い範囲のキャビティサイズで最も高いPBGの反射係数を得られるという点において、二次元PC導波路は優れている。このことから、有限な幅を持つ光導波路に空気孔を空けることにより製作されるPC導波路としては、二次元PC導波路が有効であると考えられる。

謝辞
 本研究は、大阪大学サイバーメディアセンターを使用して行った。

参考文献
(1) E. Yablonovitch; Phys. Rev. Lett., vol. 58, no. 20, pp. 2059-2062, 1987.

(2) 馬場俊彦; 電子情報通信学会誌, vol.84, no. 3, pp. 172-176, 2001.

(3) S. L. McCall et al; Phys. Rev. Lett., vol. 67, no. 15, pp. 2017-2020, 1991.

(4) R. D. Meade et al; J. Appl. Phys., vol. 75, no. 9, pp. 4753-4755, 1994.

(5) K. S. Yee; IEEE Trans. Antennas Propagat., vol. AP-14, pp. 302-307, 1996.

(6) Y. Qian and T. Itoh; “FDTD ANALYSIS AND DESIGN OF MICROWAVE CIRCUITS AND ANTENAS”, Realize Inc. 1999.

(7) J. D. Joannopoulos et al.; “フォトニック結晶” (藤井壽崇, 井上光輝 共訳、コロナ社) 2000.