バイオグリッド研究プロジェクト

スーパーコンピュータネットワークの構築

伊達 進(情報科学研究科 バイオ情報工学専攻)
秋山 豊和(大阪大学サイバーメディアセンター 応用情報システム研究部門)


1.はじめに

 本年度より大阪大学サイバーメディアセンターを中心とし、文部科学省科学技術振興費主要5分野の研究開発委託事業におけるITプログラム「スーパーンピュータネットワークの構築」の一環として、バイオグリッドプロジェクトに着手している。文部科学省のITプログラムはわが国のe-Japan構想を現実のものとすべく実施される戦略の1つに位置づけられる。
 IT(情報通信技術)とScience(科学)の融合は、21世紀のわれわれの生活をより利便かつ高度なものへと進化させると期待される。その期待の大きさは、ITのScienceへの応用を目的とした大学院情報科学研究科の設立からもみてとれる。ITはすべてのScienceへの基盤技術となりえ、今後のわが国の学術および産業の成否の鍵を握る。しかし、このような着眼に基づくわが国のITは、欧米にくらべ大幅に立ち遅れているのが現状である。また、シンガポール、中国などのアジア諸国の追い上げも著しい。
 本バイオグリッドプロジェクトは、そのような観点からバイオサイエンスとITを融合し、バイオサイエンス分野の研究の飛躍的な発展と、そのために真に有用な情報技術の開発を主目的とするプロジェクトである。わが大阪大学の座する関西圏は古くからバイオサイエンス分野の研究機関が多く存在し、バイオサイエンス発展へのブレークスルーの可能性を潜在的に秘めている地域である。サイバーメディアセンターは、これらの研究機関の中核となり、バイオサイエンスの発展へのブレークスルーを誘発できるITの研究開発をおこなう責任と使命を有している。


2.活動内容

 本プロジェクト内では、バイオ関連データベースの連携技術の開発、タンパク質の結晶データの遠隔収集、脳機能解析の高速化などを目的とする数多くのプロジェクトが現在推進されている。それらのプロジェクトが、それぞれの研究基盤を構築するために用いている技術がグリッドである。グリッドは、多様に異なるアーキテクチャを持つ計算機(ベクトルコンピュータ、スカラー並列コンピュータ等)や科学計測機器といったインターネット上の計算資源の動的な集約を可能にする。すなわち、研究者らは、グリッドによって計算資源の地理的分散にとらわれず膨大な計算力を手に入れることができるだけでなく、科学計測機器からのデータ収集、解析、解析結果の分析というプロセスをネットワークを介して行うことができる。
 しかし、グリッドは現在もまだ開発途上の技術であり、今後解決しなければならない課題も多く残されている。バイオグリッドプロジェクトでは、それらの課題を解決することのできる有用なグリッド技術が成果として強く求められており、そのために、日々実証ベースの研究開発が本センターで推進されている。また、本プロジェクトを通した人材育成や、本プロジェクトの成果に基づく新産業の導出によりわが国の産業界へのフィードバックへの期待も大きい。そのような観点から、本センターは国内の研究機関だけでなく、米国SDSC (San Diego Supercomputing Center) 、台湾NCHC(National Center for Higherformance Computing)、シンガポールBII (Bioinformatics Institute)らと海外の研究機関とも積極的に共同研究を行っている。
 それらの研究成果は、2002年9月にアムステルダムで開催されたigrid2002や、10月に米国シカゴで開催されたグリッドの標準化を行うGGF (Global Grid Forum)、11月に米国ボルチモアで開催されたSC2002 (Supercomputing2002)などで報告されている。また、国内においても、研究成果報告とより充実した成果の創造を目的とした研究会、合宿、シンポジウムなどが頻繁に開催されている。詳細はバイオグリッドプロジェクトホームページを参照されたい。

[参考文献]
(1) バイオグリッドプロジェクトホームページhttp://www.biogrid.jp