文部科学省 科学技術振興調整費(先導的研究等の推進)プロジェクト

モバイル環境向P2P型情報共有基盤の確立


村田正幸(大阪大学サイバーメディアセンター 先端ネットワーク環境研究部門)
下條真司,春本 要(大阪大学サイバーメディアセンター 応用情報システム研究部門)

1. はじめに

 平成13年度に開始した本研究プロジェクトは、今年度で最終年度を迎えた。本研究プロジェクトではサイバーメディアセンター(村田研究室・下條研究室)と情報科学研究科(宮原研究室・西尾研究室)の研究者が中心となり、大阪府立看護大学や奈良先端科学技術大学院大学の研究者と共同して、「世界中に分散蓄積された情報・知識をいつでもどこでも自由に活用できる」モバイル環境を、P2P型アーキテクチャを基盤として実現することを目的に研究を推進してきた(図1)。
 従来、有線、無線を問わずインターネット環境における情報共有はそのほとんどがサーバ・クライアント型通信形態に基づくものであり、情報発信源であるホストが突発的に発生、消滅、さらには移動するモバイル環境には適さない。有線インターネットにおいては、サーバ・クライアント型通信に代わる新たな通信形態として登場したP2P (Peer-to-Peer)型通信に基づくシステムの研究開発が盛んに行われているが、モバイル環境を対象としたP2P型通信技術に関する検討は世界的に見てもまったくなされていないのが現状であった。そこで、本プロジェクトでは、新たにモバイル環境を対象としたP2P型通信形態の実現を目指し、さらには実際の応用システムとしてウェアラブルコンピューティングへの適用に取り組んだ。


                       図1:研究体制

2. 研究成果概要

 本プロジェクトは、モバイル環境に適するP2P型情報共有基盤を実現する技術の開発を目的に、そのインフラストラクチャとしてのアドホックネットワーキング技術、ミドルウェア技術としての資源発見およびコンテンツ配信技術、アプリケーション技術としてのウェアラブル情報処理技術について研究を推進した。
 インフラストラクチャ技術では、ネットワークの多様性、拡張性、移動性を考慮したネットワーキング技術として、有線・無線統合ネットワークアーキテクチャ、アドホックネットワークにおける性能向上手法、センサネットワークのための通信プロトコル開発などにおいて成果をあげた。また、ミドルウェア技術では、コンテキストアウェアネスの概念を採り入れたミドルウェアアーキテクチャの提案(図2)、メタデータに基づく情報選択・管理技術、多人数での双方向型アプリケーションのためのマルチキャスト機構などにおいて成果をあげた。また、人のネットワークに基づいた個人間の情報伝播をモデル化し、口コミによる情報伝播の特性を多人数での実験によって示した。アプリケーション技術では、アドホックネットワークでのデータの可用性を向上させるための技術として、移動ホストの移動によるネットワークの分断を考慮した情報資源の動的複製配置技術について大きな成果をあげた。また、ウェアラブル情報処理の基盤として、イベント駆動型アプリケーション開発基盤の構築およびその応用システムの開発を推進した。
 これらの研究成果の発表は、学術論文44件、国際会議での発表57件、国内研究会等での発表118件にのぼり、大きな研究成果を国内外に示した。


  図2: コンテキストアゥエアネスの概念を採り入れたミドルウェアアーキテクチャ

3. おわりに

 P2P型情報共有基盤は、本プロジェクトの開始当初は単純なファイル共有を目的とする技術がほとんどであったが、現在ではそのアーキテクチャの有用性、特にネットワーキング形態が多様化するモバイル環境やユビキタス環境での重要性が認識されてきている。本プロジェクトはその先駆的なプロジェクトとして大きな成果をあげた。今後は本プロジェクトにおける研究成果をさらに発展させ、ユビキタス環境における情報共有基盤について研究を推進していく予定である。