巻 頭 言

サイバーメディアセンターの一年



大阪大学サイバーメディアセンター
センター長  下條 真司

本センターにとって、2005年度はこれまでと比べると大きな変化に向けた第一歩の年といえるでしょう。いわばこれまで安穏と暮らしていた大きな恐竜が環境の変化に気がついてようやく動き出したという感じでしょうか。まずは環境の変化についてお話しましょう。

環境の変化
一言で言うと学内外の環境の変化により本センターに対する期待と要求がいっそう厳しくなったといえるでしょう。学内的には大学法人化により、全学情報システムの整備による効率化と質の向上が求められるようになったことが上げられます。このため大阪大学では教育研究事務にまたがる情報システムの一元的企画、整備、運用を行う情報基盤デザイン機構の設置が検討され、2005年の2月に設立されることになりました。これに伴い、2006年4月には本センターの事務部と学生部学務課学務企画室、財務部情報推進課が一体となり情報推進部が設置されました。機構はこれまで以上にサイバーのミッションである情報システムの共同利用と学内システムの整備・運用を進めていくことになりました。
もうひとつはわが国における政府の方針として地球シミュレータを超える共用スーパーコンピュータの研究開発を今後5年をかけて推進することが打ち出されたことです。この新しいスーパーコンピュータはわれわれ基盤センター群を含むわが国の科学技術用計算資源のピラミッドの頂点に立つもので、基盤センター群の役割もこれをもとに再編成されるものと思われます。基盤センター群を設立したもののその利用技術や体制という面でお金をかけてこなかったわが国の計算科学にまつわる体制が好転することを期待し、同時に果たさなければならない責務がこれまで以上に重要になってくると思われます。
一方で科学技術を取り巻く財政状況は非常に厳しいものがあり、特に2006年度から始まる第3期の科学技術基本法ではこれまでの加速器や電子顕微鏡などの大型観測装置に加えてネットワークやスーパーコンピュータの基盤設備としての重要性が謳われていると同時に、これらの基盤設備の計画的な導入に関する戦略とさらなる共用が求められているのです。

サイバーの一年
学外ではこれまで本センターで行ってきたグリッドに関する活動が上記の動きに連動するものになってきました。本センターでは2002年よりバイオグリッドプロジェクト、2003年よりNAREGIに参加し、グリッド技術のバイオ応用やグリッドミドルウェアの開発そのものにかかわってきました。複数の計算機を連携させる基盤ソフトウェアであるグリッド技術は上記次世代スーパーコンピュータの研究開発においても重要なものとして位置づけられています。すなわち、次世代スパコンを頂点として基盤センター群を含むわが国の科学技術にかかわる計算機群がグリッド技術によってシームレスに結合され、利用者は個々の計算機や必要な計算資源などを意識することなく、所望の計算が行えることが求められているからです。グリッド技術を用いた大規模な計算を必要とするアプリケーションとしては、ナノとバイオがまずあげられています。その中で、バイオグリッドプロジェクトとNAREGIプロジェクトの連携がますます深くなってきました。
このような利用環境を支えるネットワーク基盤としてSuperSINETの役割もますます重要になってきますが、NIIもこれまでのように単なる土管を提供するだけでなく、グリッド含めたより利用者に近い基盤を提供するべく、CSI (CyberScience Infrastructure)という構想を立ち上げました。ここでは単なるネットワークや計算機の利用だけではなく、図書館での電子ジャーナルや検索サービスの提供も含めた研究基盤をサイバースペース上に実現することを謳っています。
そのなかで手始めとして2006年度よりNIIと7センターが協力して全国認証基盤構築事業が始まります。PKIによる認証基盤をまずは7センターを中心に構築し、無線LANやグリッドなどさまざまな応用技術開発と実証実験を行う予定です。これによって、これまでばらばらに取り組まれてきた各大学の認証基盤整備に対する指針を与えるとともに連携した取り組みも検討されています。
このほかにもネットワークの高度化、グリッド技術の推進を含めて、NIIの委託事業が2005年度より開始されました。
学内ではようやく学務情報システムの構築が開始され、やさまざまな情報システムの基盤となる全学IT認証基盤の設計を開始しました。本格的な構築は2006年度に行われる予定です。

本センターのミッション
このように2005年度は本センターのネットワークやスーパーコンピュータ、情報教育環境、電子図書館といった基盤サービスの提供がますます重要になってきた一年でした。2006年度はさまざまなサービスの開始に加えて汎用コンピュータとスーパーコンピュータの更新も控えています。こういった現業のサービス提供に終われる中で、本センターでは新たなサービスの種になるさまざまな研究開発を行っています。本年報がそのような多彩なセンターの活動を知る一助となれば幸いです。