授業担当教官の声
情報活用基礎を担当して
野村 泰伸(基礎工学研究科 システム人間系専攻)
1.はじめに
Turbo-Linuxと共に新装オープンしたサイバーメディアセンターで叙法活用基礎を今回はじめて担当した。基礎工の学生に対する情報活用基礎の開講は今年度がはじめてである。学科内関係者の話し合いにより、とりあえず「高校時代にコンピュータにまったく触れた事のない1年生を対象とする」を受講条件とし、授業の目的は「コンピュータに対する感情的障壁を取り去り、その使用に慣れる」とすることとなった。20世紀の終わりに高校時代を送り、そこで科学技術に興味を持って基礎工システム科学科に入学したと思われる学生の果たして何人がこの条件を”満足する”ものかと興味を持ったが、予想をはるかに越えた数の学生が受講した。実際、1回目の授業でセンタが受講生に対して行ったアンケートの回答を見せていただいたが、多くの受講生がまさしくこの条件を満たしていた。この結果に私はなんとなく不満と疑問を感じた。
情報活用基礎という授業の存在は、10年以上前に大学学部教育を受け、計算機リテラシーを地道に自ら身につけてきた(?)私にとっては、至れり尽せりの計算機教育体制であると思われる。しかしながら、基礎工の学生にとって情報活用基礎が何のために存在するのかという根幹的な疑問に対する答えはそう明確に語られていないように思われる。ここでは、まず情報活用基礎で何を行い、学生の反応はどうだったかを述べ、その後、この授業のあり方に関する私見をまとめたいと思う。
2.授業の内容
- キーボード、モニタ、本体の説明。ログイン、ログアウト
- インターネットブラウザ(Netscape Navigator)の起動とネット散策
- 日本語エディタの使用方法、フォルダの作成、ファイルの保存
- メールの送受信(NetscapeCommunicator)
- インターネットを使った情報検索
- ワープロソフト(ApplixWord)
- ドローソフトおよびペイントソフト(ApplixGraphics、GIMP)、画像ファイルの種類と変換
- 簡単なシェルコマンド、階層的ディレクトリの作成
- 簡単なC言語プログラムソースの作成とコンパイル・実行
- LATEXによる文書作成(数式、図の挿入を含む
- HTML言語で簡単な文章作成(TAの人に行っていただいた)
- グラフソフト(gnuplot)の使用(TAの人に行っていただいた)
- 表計算ソフト(ApplixSpreadsheets)
このように、一部を除いて世のハイテク音痴なおじさんにWindows附属の解説ソフトが説明するようなアプリケーション使用法をみんなでやってみましょう的な内容に終始した。こうしてまじめに授業に参加した学生は、半年の間に将来使っていく事が予想されえる道具の概要と使い方を自ら体験した訳で、授業の目的は容易に達成できたと思われる
3.情報活用基礎とは何か
授業で取り上げた各道具を使う必然性がないためか、学生の興味は刹那的に思われた。何度か、前回の授業から今回の授業の間にセンタのコンピュータを使用した人数を聞いたが、セメスタ後半でも約5人ほどであった。つまり授業以外にもコンピュータを使おうという程ではないらしい(センタが授業中であったり、授業時間外でもちゃんと使っている人で混雑していることも要因と考えられるが)。3・4年生になったら必要だからという弱い動機付けを言いつづけなければならなかった。これとは対照的に基礎工システム科学科の大部分の4年生は、情報活用基礎は受講していないが、毎日計算機といっしょに暮らしている。このことは、コンピュータに対する障壁は、必要に迫られて実際に使えば簡単に解消できるという事を意味している。2節に挙げたようなアプリケーションソフトの使い方をできるだけ早期に(1年生に)授業として教えるほうが良く、それは必要な事であるという考えがあるとすれば、それに関しては大いに議論の余地がある。
一方、世の中に氾濫する多くのIT関連製品の1ユーザとしての学生が、メールがどんな仕組みで相手に届くのか、携帯電話とPHSはどこが違うか、LinuxとWindowsの違いは何か等からはじまり、ハードウェアや通信プロトコルの基本アイテムの原理や概念をそれなりに説明できる学生は多くないと考えられる。私自身にこのような内容を議論する能力がないことを断っておくが、少なくとも理系の学生に対する情報活用基礎は、むしろ少しのアプリケーションの使用を題材にして、身の周りのITコア(周辺?)部分に触られるような内容であるべきではないかと思われる。それによって、単に1ユーザとしてコンピュータを使い、自分の使っているホストがトラブルで固まってしまったら、そのまま放置して隣のホストにログインしなおしてメールを読みつづけているような無責任なネットワークの一員ではなく、発生したトラブルに対処を試み、よりよい計算機環境を模索し、将来ITの新しい展開に寄与していくような学生が育つ土壌となるべきではないかと思われる。この場合現在の大学教官はみな基本的なアプリケーションソフトは使えるから、それを教えればよい的な情報活用基礎は誰でも担当できるという事はなくなる。誰もが情報活用基礎・技術を教える訳ではないのだから。もし、このような教育を学科単位の教官で継続的に行っていくことにするのならば、教官や大学院生に対するアドバンスな情報活用基礎教育を含めた支援体制が必要となると思われる。そのときサイバーメディアセンターには重要な役割を果たしていただくことを希望する。多大なる人的負担が容易に予想され、簡単に実現できるとは思わないのですが。また、本気でこのような授業を行うためには、カリキュラムの延長(2セメ制)とか、集中講義形式の授業を設定する必要があるかもしれない。
4.おわりに
勝手なことも述べさせていただいたが、大部分の内容は情報活用基礎をサポートしてくれた大学院生も共通して感じていたことである。「こんなこと今やってもしょうがないですよね。もっと本質的なことができないだろうか。」理学系学生に対する情報活用基礎の内容を吟味、充実させていくことは我々の責務であり、今後も何らかの形で議論を続けて授業内容に反映させていきたい。一方、3節で述べたように決して情報活用基礎と無関係ではない世界の話として、各部局、学科のネットワーク管理(含むセキュリティ管理)に関する人的問題があると思われる。この管理は、多くの場合、個人レベルの教官・大学院生ボランティアに任されており、継続的に安定して運用していく事が困難な状況になってると思われる。膨大な数の単なる1ユーザのネットワーク利用を下支えする人材の育成や充実と彼らの活動の適正な評価基準の策定を含む形の上での大学全体としての情報技術教育への取り組みが望まれる。