情報教育システムの利用者の声
○授業担当教官の声○
工学部応用理工学科・情報工学演習Ⅰを担当して
大塚 敏之(大学院工学研究科 電子制御機械工学専攻)
1.担当科目の概要
私は工学部応用理工学科2年次前期の情報工学演習Ⅰを担当しています。この演習では、サイバーメディアセンターの計算機を使ってC言語のプログラミングを教えています。最初はプログラムの編集・実行のしかたから初めて、その後HandyGraphicライブラリを使った描画、テキスト・ファイルの操作、配列・ポインタの操作など、基本的なプログラミングの練習をしています。最低限習得すべき課題を全員に共通して与えるとともに、各人の進度や創意工夫に応じた発展課題や自由課題も与えています。私が担当しているのは情報工学演習Ⅰの中でもごく一部でしかないのですが、日ごろ感じていることを綴ってみます。
2.計算機環境についての感想
演習はサイバーメディアセンター吹田教育実習棟で実施しています。学生たちが時間外に作業するときは、機械系にある分散端末も良く使われているようです。私個人としては計算機環境に対する不満は特に無く、プログラミングの実習には十分な環境だと思います。センターのホームページを見るとアプリケーションの使い方などいろいろな情報が得られますし、センター利用教官のメーリングリストなどで出される要望には迅速に対応していただいているようです。
強いて要望を言えば、HandyGraphicライブラリがWindowsでも使えるようになって欲しいことでしょうか。なぜなら、とandyGraphicライブラリによる描画プログラミングを自宅のWindowsパソコンでも作ってみたい、という学生がたまにいるからです。そのようなとき、CコンパイラとしてはフリーのWindows版gccを紹介するのですが、HandyGraphicが使えず、センターで作ったものと同じプログラムを自宅で実行する事ができないのは残念です。自分で開発環境を整えるほど詳しくはないけれど演習の課題とは無関係にいろいろプログラムを作ってみたい、という意欲的な学生もいますので、そういう人達が自宅のパソコンを活用するのを少しでも手助けできると良いと思います。
3.演習についての感想
計算機環境への要望はさておき、情報工学演習Ⅰのような計算機実習は教育上とても重要だと感じています。ここでいう教育上の重要性とは、単に計算機やプログラム言語の知識を教えることの必要性という意味ではなく、より総合的な工学教育の貴重な機会であると思います。特に、計算機実習の意義は、個別の学生と対話しながら指導することと、工学上の問題にぶつかって悪戦苦闘する経験をさせることの二つにあると私は考えています。
まず、個別の学生と対話しながらの指導に関しては、研究室配属前の学生たちにとって、計算機実習が数少ない機会であると思います。普段の講義は一方通行になりがちですし、問に来るように促してもあまり効果がありません。それに対して、計算機実習では教官やTAが教室を巡回しているので、分からないことを即座に質問でき、しかも基本的に一対一の対応ですので、質問する事への抵抗感も小さいようです。
さらに、それぞれの学生がつまづいている点を個別に説明できる点は重要です。また知識を教える以上に重要なのは、問題解決への取り組み方を教官自身が見本となって示すことでしょう。
問題解決への取り組み方というのは、学生から質問されたことへの答え、プログラムの構造や書式へのアドバイス、デバックでの洞察や論理的思考などを通じて学生たちに伝わるものだと思います。工学の面白さのうち講義で伝えにくい部分を学生たちに感じてもらえたら、と願っています。
次に、工学上の問題にぶつかって悪戦苦闘する経験というのも、卒業研究以前の機会は少なく、計算機実習が貴重な機会だと思います。工学では目標やその達成方法のアイデアを自分で出して、さまざまな試行錯誤をすることが大切ですが、その大切な事を体験させる機会が実はあまり多くありません。それに対して、計算機実習では、個別の課題を与えたり、自由にプログラムを作らせたりすることにより、学生自身が自分でアイデアを出して試行錯誤する機会を作ることができます。特にプログラミングは失敗しても危険なことはありませんので、失敗を恐れずにアイデアを試せる点では格好の教材です。学生達には、ぜひ自分でアイデアを出す苦労と楽しさを味わって欲しいと思います。また、目的を明確化してアルゴリズム化したり、周囲の人と相談や講義をする際に意図を正確に伝えること、プログラムが期待通り動かない理由を論理的に考えることなど、通常の講義では体験できない経験を積んで欲しいと思います。そして、その経験を豊かなものにする
刺激を研究のプロである教官が与えられたら、と思います。
自分なりのプログラムに取り組んで頭を悩ませたり面白がったりしている学生を達を指導することは私自身にとっても楽しいことです。素朴ではあってもユニークな発想のプログラムを見たときの嬉しい驚きは、担当者に与えられた特権かもしれません。