情報活用基礎を担当して
吉田 真紀(大学院基礎工学研究科 情報数理系専攻)
1.はじめに
2001年度前期に情報活用基礎という科目を担当させていただきました。私は今年度に学生から教官という立場に移りました。この科目を担当することによって、その移行を思う存分実感できたことは今では良い思い出となっております。ここでは担当するにあたって重視したことを中心にまとめさせて頂きます。
2.WWWを活用したコンピュータリテラシ教育
情報活用基礎では、情報の伝達・収集・整理・分析の能力(コンピュータリテラシ)を身につけ、情報を活用できるようになることを目的としています。担当して最初に当たった壁は、何をもって情報を活用できているとみなすか、つまり目標の設定です。近年、インターネットが普及し、WWW (ワールドワイドウェブ、 以下ウェブと略す) や電子メールサービスなどの利用者人口が急激に増加しました。ウェブを利用することによって、膨大な量の情報の収集が可能となりますし、自分で情報を発信することもできます。私がみた限りですが、インターネット経験者の学生のうちウェブを利用して情報を得る(与えられる側の)学生は多いのですが、情報を発信する、つまり与える側に立った経験がある学生は多くありません。また、どちらの立場を経験したにせよ、どうしても楽しむ方に流れてしまい、危機管理やネチケットなどの心構えが置いてきぼりとなっています。そこで、講義と演習ではウェブを利用し、情報を与えられる側だけでなく与える側となるための方法と心構えを身につけることを目標としました。
3.海の物とも山の物ともどちらとも
薬学部の情報活用基礎を担当される他の教官の方(薬学研究科所属)に、薬学部の学生はどのような情報を対象として、どのような処理をできるようになれば目標に達したといえるのかを最初に伺いました。頂いた回答を自分なりに解釈して書きますと、一つ、薬学部学生の今後の勉強内容が海へ続くか山に続くかは気にしないでよい、二つ、学生が今後どちらに行くことになっても行き先に合わせた装備を一度は使ったことがあるように海水浴とハイキングの両方につれて行っておく、三つ、楽しいだけではなくて装備の使い方を誤ると危険だということを、事例を示して実感させ、その対策を伝える、と以上でした。海水浴とハイキングの行き先、つまり具体的な演習内容について、学生の遭難を避けるあまり無難なコース(内容が浅い、難易度が低い)になりすぎないようにすることが次の問題となりました。
4.全体講義の方針・内容
全日程のうち早い時期に全体講義の時間がとられました。全体講義では、情報化社会における心構えを情報化時代のダークサイドといわれるセキュリティ問題とからめて講義させていただきました。内容は、まずインターネットの普及率やインターネットを利用した様々なサービスの紹介でした。そして、セキュリティ問題について事例を挙げながら、インターネット利用する場合には情報の取り扱いを誤ると被害者となるだけでなく、意図しなくとも加害者となりうることを示し、その対策である危機管理も言及しました。研究分野が情報セキュリティということもあり、現在のセキュリティ技術を使えば危険をどこまで避けることができるかも簡単に述べました。例えば、オンラインショッピングで通信内容を秘匿し、通信相手を認証するために暗号・電子署名技術が利用されていることや、デジタルコンテンツの不正コピーを抑止するために開発されている電子透かし技術についてです。学生が講義で何を聞きたいと思っているかを、電子メールおよび日本語入力の練習の際に、演習課題もかねて書いて送ってもらいました。
情報化時代では便利さと引き換えに社会の一員としての責任が大きくなり、セキュリティ問題は他人事ではすまなくなっています。学生達はコンピュータやインターネットを少し利用した後に、本格的に利用するためには自覚と覚悟が必要であることを教えられたことになります。他の担当教官の方が日程を組んでくださったのですが、うまく組んでおられると思いました。
5.演習の方針・内容
演習では、各回ごとの資料をその時間が始まるまでにウェブページとして公開しました。ウェブから情報を得ることに慣れてもらうだけでなく、習熟度の高い学生が演習時間中に自分のスピードで練習できることも狙いました。演習内容は、情報の収集→処理・生成・整理→統合・発信→評価、という流れをとるようにしております。情報の収集はウェブの検索エンジンを利用しました。自分で生成し処理する情報には文章だけでなく、図、グラフ、表も含まれています。生成し処理した情報の統合および発信はウェブページを作成することで果たします。発信された情報の評価は、ウェブページコンテストというかたちをとり、各学生に他学生が公開したウェブページ評価してもらい、その結果をこちらで集計しウェブページに公開する予定です。
演習では、学生は情報を得る(与えられる)立場をスタート地点とし、与える立場を経た後に、再度情報を与えられる立場に戻る(情報を評価する)ようなっています。両方の立場を巡ることで、ウェブページには何でも
- それが良いかどうかは別として - 自由に書くことができることを認識し、ウェブ上の情報への接し方をしっかり考えてもらいたいと思っております。演習中は、ウェブ上の情報を利用する際に、その信頼度を吟味したうえで取捨選択しなくてはいけないこと、また、情報を統合しウェブ上に発信する際はどのような視聴者を想定しているかを自分のなかではっきりさせ、引用する情報には注意を払わなくてはいけないことを強調しました。
6.あとがき
十全とはいえない担当教官ではありましたが、薬学部を担当されている他の教官の方々やTAさん達、サイバーメディアセンター職員の方々のおかげもあり、コンピュータやインターネットを利用した海水浴とハイキングは終りを迎えることができそうです。この科目を受講した学生達がこれから先、コンピュータやインターネットを活用して情報の山や海に向かっていけることを心より祈っています。