CALLシステムの可能性-フランス語教育の現場から

北村 卓(言語文化部 フランス語教育講座)

1.はじめに

 昨年度より導入されたCALLシステムは、外国語教育の発展にとって大きな可能性をはらんでいる。同時に、機械の導入によって従来の伝統的な教授法が根底から覆されるのではないか、あるいは非人間的・画一的な外国語訓練に終始するのではないかなどの若干の危惧があるのも事実である。しかしながら、私個人は、いまだ確立されていないCALLシステムによる教授法を、自らの創意工夫によって、多用な方向から開拓することができるのではないかと考えている。
 現在、言語文化部でCALLシステムを利用しているのは、英語・ドイツ語・フランス語の三つであるが、なかでも私が所属するフランス語教育講座は、最も積極的にCALLシステムを活用している。ちなみに本年度前期において、CALL専用教室(A315)および併用教室(A304)の利用率はフランス語が一番高い。以下、CALL教室におけるフランス語教育の試みを紹介しながら、CALLシステムの可能性について考えてみたい。

2.教材の問題

 文字・音声・映像を同時に利用できるマルチメディア教育に対応したCALL教室には多用な機能がある。たとえばインターネットを通して、外国の新聞やラジオ・テレビのニュースなどにリアルタイムで接することができる。また、教師用の端末から各学生の端末に様々な指示やデータを送ったり、逆に学生の側からの質問や解答に対しディスプレイ上で即座に対応することもできる。  CALLシステムの機能を充分に活用するための教材開発については、とりわけ需要の多い英語教育の分野ではかなり進んでいる。しかしながら、他の外国語教育の現場では、英語に比べて需要がはるかに少ないという根本的な問題もあって、教材開発は熱心な教師の献身的な努力に負っているのが実情である。
 本学のフランス語教育では、岩根久助教授が開発した、インターネット上で自習できる文法練習問題や動詞活用練習問題などを授業でも活用している(これには学生個人のパソコンからも簡単にアクセスができる)。同時に、アメリカのAuralog社が開発したCD-ROM版(LAN対応)のマルチメディア・フランス語総合教材「Tell Me More」を複数の教官が使用している。この教材は、双方向性の会話・発音・聞き取り・作文・語彙・文法などの練習が美しい画像とともに盛り込まれ、また学習者のモチベーションを高めるためのさまざまな工夫がなされている。自習教材としては実によくできているが、もともと英語を母語とする学習者を対象に作られていることもあって、日本で初めてフランス語を学習する初心者に対しては、不都合な点も多く、この教材だけを用いて授業を行うには限界がある。また、ディスプレイに学生が集中できる時間は限られている。せいぜい15分か20分であろう。したがって、実際の授業では、学習者のレベルに応じて複数の教材を効果的に組み合わせ、授業を構成してゆくことが求められる。

3.授業の組み立て

CALL教室の利用法としては、以下の三通りが考えられる。
 (1)従来の教材を用いながら、CALLシステムを活用する。
 (2)CALLシステムに適応したマルチメディア教材を使用する。
 (3)前二者を組み合わせる。
 私自身は、先にも述べた理由から、(3)の方法をとっている。たとえば1年次の学生対象でコミュニケー ション能力を養成するフランス語120の授業では、今年、大阪日仏センターが開発したフランス語のビデオ総合教材「ALPHABETIX」をメインの教材とし、その学習進度に応じて、ネット上で行うフランス語文法練習問題・動詞活用練習問題、さらにはマルチメディア教材「Tell Me More」を補助的に導入している。また、本学のCALLシステムの根幹をなす、Sky Menu Pro と Calabo 2000 を活用し、出欠の確認に始まり、ビデオ映像や従来は黒板に書いていた内容を教師の端末から学生の端末に直接送る、各学生が自分の端末に打ち込んだ文章などに割り込んでチェックし、それをリアルタイムで学生全員の端末に送る、などといった操作を、ティーチングアシスタント(TA)の協力のもとに行っている。さらに、ペアやグループによる会話練習を積極的に採り入れ、そこに教師やTAができる限り関与するようにして、生身のコミュニケーション能力の育成も目指している。  もちろん2年次の授業では違う組み立て方をしているし、他の教官もインターネット利用を進んで採り入れるなど、それぞれの工夫を凝らして授業を構成している。CALL教室の授業といっても、決して画一的なものではなく、各教師の個性が授業の組み立てや進め方に大きく反映するのである。CALLシステムを利用する授業は、まだまだ手探りの状態ではあるが、私は、教材開発とともに、学習者のレベルとモチベーションに応じた多用な授業構成こそが、CALL授業を活性化させる一つの方向性ではないかと考えている。  試行錯誤の段階ではあるが、CALL教室における複数の教材を組み合わせた授業では、一般に学生の集中度はきわめて高い。居眠りなどする間もなく90分が過ぎてしまう。とりわけ今の学生にはITに対するアレルギーはほとんどなく、授業に対する学生側の評価も、時に生じる機器のトラブルを除けば、すこぶる良い。

4.今後の展望

 一般に、CALLは機械を利用したシステムなのだから、教師の負担は軽減されるはずだとの認識があるが、現在のところ、それは間違いである。CALLのように新しい機能を豊富に備えたシステムをできるだけ有効に使いこなそうとすればするほど、教師側の役割は大きくなる。実際には教師一人で授業を運営するのは困難でTA(できれば複数)の協力が不可欠である。それでも授業のあいだ中、機器を操作し、教室の中を走り回ることになる。日本におけるCALL教育が端緒についたばかりの現在、こうした状況はこれからも続くであろう。だからといって、手をこまねくのではなく、技術革新が加速度的に進むなかにあって、いま積極的に取り組むことこそ、より効果的な外国語教育の構築に向けての大きなステップになると思われる。
 現在の授業は、サイバーメディアセンターのスタッフによる献身的ともいえる技術的サポートによって成り立っている。センターの建物および3つの新たなCALL教室が完成した際には、さらに多くの技術的問題を抱えることになるだろう。今後とも、サイバーメディアセンター・外国語担当教官・TAの三者が、より連携を密にして、さらに良いシステムを築き上げてゆくことを願っている。

5.おわりに

 外国語教育の方法についてはさまざまな考え方があるのは承知している。私自身も、優秀な一人の教師に優るマルチメディア装置は無いという信念を持っている。とはいえ、技術革新の成果を前にしながら、それを教育に利用しないというのもいかがなものかと思う。新たな可能性が広がるこの領野をいかに切り拓いてゆくのかが、今われわれ教師一人一人に問われている。