CALL教室でのオーラル・コミュニケーション教育(要旨)


ティモシー・グールド(言語文化部英語教育講座)

はじめに

 この論考では、マイクロソフト・パワーポイントとインターネットを利用した、1回生向けのオーラル・コミュニケーション授業(英語440)の実践例を紹介する。最初の4週間までの具体的な授業中の演習や課題を週ごとの日記風に記述しながら、授業の成功した点、うまく行かなかった点、授業中のエピソードやCALL機材に関する技術的な点などについて述べる。今後このような授業を実施することを考えていらっしゃる先生方の参考になれば幸いである。

第1週目の授業

 学期全体の授業を進める基盤作りという意味から、第1回目の授業は特に重要である。受講生に対して、この授業の主眼はコンピュータそのものではなく、コンピュータをコミュニケーションの道具として用いることである旨を強調して説明した。その上で、CALL教室でオーラル・コミュニケーション授業を行う意義を述べ、パワーポイントと、その会話授業における有効性を解説した。パワーポイントはコミュニケーションの支えとなり、第2言語での会話に伴う認知上の負担を軽減する。インターネットも、絶えず変わり続ける最新のテキストとして会話の材料を提供してくれる。また、会話授業には適さない教室レイアウトのためもあり、CALLでは受講生がコンピュータのみに集中してしまい、お互いのコミュニケーションが希薄になる恐れがあるが、これを防ぐため簡単な会話練習を導入し、対面して互いに話し合う会話の意識を醸成するよう努めた。

第2週目の授業

 授業の始めに、「パワーポイントはどんなに簡単?」と題したプレゼンテーションを学生に見せ、プレゼンテーション作成は長期間要するものではなく、わずか数分という短時間でもできることを示した。英語版のパワーポイント上で基本的なスライドショーの作成プロセスを見せ、パワーポイントやコンピュータを扱い、話題にする際に必要な基礎的な英語の語彙を教えた。また、実際に英語で会話をする機会を与えるため、インターネットの「ニューヨーク・タイムズ学習ネットワーク」からの記事を読み、質問用ハンドアウトを作り、それに基づいて会話をするペアワーク練習も実施した。

第3週目の授業

 自分自身についてのプレゼンテーションを作成するという始めてのパワーポイント課題を与えた。良く知っている事柄について作業することで、パワーポイントの基本的操作を学ぶことに集中できると考えたからである。しかし、これはうまく行かなかった。理由は定かではないが、学生はほとんど作業を進めることができない。そこで急遽課題を変え、自分とペアを組んでいるパートナーについてのプレゼンテーションを作ることにした。後から気がついたことだが、こちらのほうがコミュニケーションという授業の目標により相応しい課題設定だった。例を示すため、このクラスのTAについてのプレゼンテーションを、実際に私がTAの一人に質問をしながら作成し、学生にはその一部始終をセンター画面で見てもらった。完成後プレゼンテーションも行った。この新しい課題のもとで、クラスは一気に活気づき、学生はパートナーに多数の質問をし、首尾一貫したプレゼンテーションを作り始めたのだ。ちょっとした授業方法の変更がもたらした効果の違いにあらためて驚かされた。

第4週目の授業

 第3週目で作成したパートナーについてのプレゼンテーションを、実際にパートナーに向かって発表し、自由に質問やコメントを交換することで会話練習をさせた。コンピュータ画面からの情報に支えられ外国語を扱う認知上の負担が軽減されたこと、そしてリラックスした雰囲気によって、学生は自由闊達な会話を楽しむことができた。プレゼンテーションを作成し、それを支えとして使い自然な自由英会話が行えることを学生に示したことで、この第一段階のプロジェクトの目的は達成されたと言えるだろう。また、この週の授業では、次の第5週目に行う本格的なパワーポイント課題の準備として、インターネットからの情報収集練習をさせた。英語のウェッブサイトを使って、アメリカの最も小さな州はどれか?とか、世界最高峰の正確な高さは?などの情報を素早く集める練習を気楽な競争形式で行った。この際、サイバーメディアセンターの機器の中でも、センター画面は学生にサーチの見本を見せるのに有効であり、各端末をモニターする機能は個々の学生を指導する上で役にたった。

むすび

 この報告は現在進行中かつ開発中の授業の初期段階を示したものであるが、他の先生方の参考になれば幸いである。サイバーメディアセンターには、英語教育の新しい方法を試し改善する貴重な議論の場を提供していただいた。付け加えれば、今こそオーラル・コミュニケーションのクラスを、阪大生のコミュニケーション能力を大幅に向上させる方法で教えることができる状況であると思う。この論考で展開した論点、そしてここでは紹介できなかった授業の後半部分についても皆さんとこれからさらに議論して行きたいと思う。