E-Learning の考え方


美濃 導彦 (京都大学学術情報メディアセンター)

1. はじめに

 インターネットの高速化、マルチメディア技術の発展は、ネットワークを介した遠隔教育を可能にした。計算機を利用した遠隔教育は一般にE-Learning と呼ばれ、今後ますます進展するものと考えられている。E-Learningは特に学生の人格が形成されている高等教育に有効である。 E-Learningは、時間と空間に制約されないといわれている。すなわち、いつでも、どこでも教育が受けたいときに受けられるのが大きな利点である。これは、教材が常にサーバにありインターネットを介して受講生が好きなときに好きな場所からアクセスすることにより学習ができるからである[1]。 しかし、この概念は何も新しいものではない。これまでも本というメディアが存在し、自学自習において学生が自分で好きなときに好きな場所で学習する形態は可能であった。インターネットや端末という設備を必要としないこの形態こそ、時間と空間の制約を受けない優れた学習方法である。 では、E-Learningは学生が本を用いて自学自習する形態とどう違うのであろうか?その本質は何であろうか?それは、マルチメディアにより本よりもわかりやすい教材、計算機との対話性の確保、必要ならばオンラインでの質疑応答、など本よりも格段に講義に近い形態が実現できていることである。これに貢献した技術は計算機の高速化、マルチメディア処理の実現、およびインターネットの普及と高速化である。 日本では大学の環境が整備され、すでに十分な高等教育が行われている。このやり方に問題がなければあえてE-Learningを導入する必要はないではないかという議論がある。これは教育する側の論理であり、学生側から見ると状況は大きく異なる。学生は小学生のころから計算機を利用して来ており、大学においても計算機を使わない方がおかしいのである。特に、教育は毎日受けるものであり、教育に対する改善要求はかなり強いものがある。大学が法人化され、学生の教育に対する要求にどう答えるかが求められている状況では、大学としても真剣にE-Learningの導入を考える必要がある。 このように議論すると必ず出てくる意見は、E-Learningを導入すると先生の職がなくなるのではないかというものである。講義とE-Learningを比較して、大学経営の効率化のために人減らしが起こる可能性を心配してのものである。この心配は無用である。E-Learningは、対面型の講義を置き換えるものではなく、本による自学自習がそうであったようにそれを補完するものである。 本稿では、E-Learningに関する考え方と方向性について私見を述べたい。

2. E-Learningとは

 一般的にE-Learningは様々な意味で用いられる。ここでは、以下の議論を明確にするためにE-Learningを「情報技術(主としてマルチメディアパソコンと情報通信技術)を利用した講義、自習の形態」と定義する。情報技術はデータの記憶技術により時間の制約を、情報通信技術により空間の制約を緩和するものであるので、図1に示すようにこの二つの軸で教育の形態が位置づけられる。 従来の教育形態の代表は、講義と自習である。もちろん演習や実習、実験、グループ学習などこれ以外にもいろいろな形態があるが、時間と空間から考えると講義と同じ形態として問題はない。図1からわかるように従来の教育形態は時間と空間から考えると全体の半分程度しかカバーしていなかったのである。 情報技術はこの教育形態を広げるものである。これは決して従来の教育形態を置き換えるものではなく並存するものと考えなければならない。図中のWBT(Web Based Training)はサーバに教材があり、インターネットを介して学習者が教材に接続し学習する形態を意味する。狭い意味でのE-Learningはこの形態をさすことが多い。

      図 1 E-learningの携帯

ここでは、時間を共有する形態の遠隔講義もE-Learningに含めて考える。これは遠隔講義も情報技術を活用した講義の形態であり、場所的な制約を緩和する教育形態であるからである。

3.E-Leraningの特徴

E-Learningを考えるに当って、その特徴を明確にする必要がある。ここでは、遠隔講義とWBTに分けて議論する。

3.1. 遠隔講義

 遠隔講義は情報技術を利用して初めて実現できるものである。この形態では、時間の制約を受ける。すなわち、遠くに離れた二箇所以上の場所で同時(時差がある場合は同じ時刻という意味ではなくなる)に準備が出来ていなければならない。これらの場所を双方向の映像チャネルで接続し、オンラインで情報を交換する。
 この形態のE-Learningの最大の特徴は、その場で他の教室の学生とインタラクションが可能なことである。講義の大きな特徴が時間と場所を共有することによる学生との実世界でのインタラクションであり、これが教育の本質であると一般的には考えられている。場所が離れていても情報技術を利用して対話性が確保できる。
 この時、技術的には音声の質、映像の質、映像伝送による時間遅れが問題となる。音声の質が悪いと講義そのものが成り立たなくなる。遠隔講義においてはよく起こる問題が音声のエコーである。音声が問題になると講義そのものが成り立たないだけでなく、そこにいるのが耐えられない状況になる。この意味で講義にとっては音声が一番重要なものである。映像の質が悪いと学生は講義に専念できなくなる。特に、教材が読めないことは致命的で音声がクリアに聞こえているとしても理解は進まない。これに対して講師の映像は、学習という意味からするとあまり必要ではない。
 実世界では文字が読めないということと講師の姿や動作が見えるということはほとんど同じであるが、これは人間の目の能力が優れているからである。これら二種類のデータは本質的に異なるので、映像伝送システムを設計する上では注意が必要である。教材などの静止画像は高い空間解像度が必要であるのに対し、人間の動きを伝える映像は時間解像度の方が重要である。これを同じカメラを用いて撮影、伝送するとどちらかに問題がでる。二種類のカメラを利用して二種類のメディアを伝送しようとすると情報通信のコストがかかる。映像はそのデータ量が多く、情報通信に大きな負荷をかける割には講義における重要度はそれほど高くない。このような問題をよく考えてシステム設計しないと実利用できないシステムになる。
 遠隔講義は、従来の講義とそれほど変わらないので、違和感なく受け入れられている。ただ、遠隔地の教室には、学生をサポートする講義内容をよく知っているTAが必要であり、講義をする講師の方も従来の講義とは違う授業方法、教授方法が必要とされる。類似しているがゆえに見落としやすい点であり、十分な注意を払う必要がある。

3.2. WBT

 遠隔講義と違ってWBTのタイプはいつでもどこでも好きなときに教育が受けられるというE-Learningの中心的な形態である。Webブラウザによるホームページの閲覧と同じ方法で教材を表示して学習を進める。教材には、文章、図、画像だけでなく、アニメーション、映像など学習者の理解を進める工夫がなされている。  典型的な教材では、最初に教材の全体像が示され、各章で何を学習目標にしているのか、どんなことを習得するのかのガイダンスが表示される。これは本で言う目次に当る。これを見て学習したいところを選択的に学習することが可能である。また、各章には、演習問題がついており、これが選択式の場合は自動採点ができる。ここである程度の成績をとらないと次の章に進めないメカニズムもある[2]。
 これらの仕組みを駆使して、わかりやすい教材を作成することが、この形態の遠隔教育を成功させるポイントである。教材作成はコストのかかる大変な作業であり、知識を持っている講師、全体を企画管理するインストラクションデザイナ、実際に素材を作成するデザイナらの共同作業となる[3]。
 このようにして作られた電子教材は利用されれば利用されるほど進化する。講義はその場で内容が消えてしまい蓄積効果はないが、このような教材の場合は蓄積効果が明白であり、確実に改良される。したがって、先行者利益が大変大きな領域であり、教材の作成が大学の命運を分けるかもしれない。
 容易に想像できるように、このような教材を自学自習するには強い動機が必要である。本を読んで自学自習する場合と同じである。ただ、このような学習環境はコミュニケーションツールを備えているので、挫けそうになったり問題に直面した時には、教材作成者側が提供するメンタと呼ばれる世話人や、会えないが一緒に同じ教材を学習している他の学習者とコミュニケーションをとることが出来る。一人で学習しているのではなく、誰かが見守っていてくれる、あるいは他の人も一緒に学習しているという意識は学習者にとって学習を継続するために重要な心理的要因であり、この学習形態の大きな特徴である。

3.3. バーチャルユニバーシティ

 米国ではWBT形態の教育のみで大学そのものを運営するというバーチャルユニバーシティが開学している。多くの科目がWBTで用意されるとそれらを大学として統一的に管理することが必要になる。学生のデータベースや成績管理システム、コミュニケーションツールなど基盤となるシステムはCMS(Course Management System)と呼ばれている。バーチャルユニバーシティではキャンパスがないので大学に必要なあらゆる機能を情報技術を用いて構築しなければならない。ディジタルライブラリはもちろん、単位登録、授業料の支払い、進路相談などすべてをネット上に構築する。
 この大学にいるのは、メンタと呼ばれるネットワークを介して学生を世話する人たちである。教材の学習が進まないと電子メイルで様子を尋ねる。学生からの質問、悩みに対しても相談にのる、いわば学級担任の役割を果たす。教材内容に関する質問は専門の教員に転送して返事をもらうことが出来るので、メンタは教材の内容を理解している必要はない。ネットワークを介してうまく学生の世話の出来る能力が要求される。  面白いことに、このような大学の必須の機能が電話によるヘルプデスクである。受講生は全世界から集めるので、ヘルプデスクは24時間対応が必要となる。すべての機能がインターネット経由でしか利用できないので、インターネットにうまく接続できないと何も始まらない。一度つながると後はメイルの使い方をマスタすれば、質問が可能になる。その後は、大学で必要な手続き、大学にある施設の利用、教員への連絡など、必要なことはすべてネット経由で出来る。学生同士が知り合う掲示板、知り合った後はメイルによるコミュニケーションなど、インターネットを駆使して大学教育を行っている。
 E-Learningが現実的に可能になった頃からアメリカの多くの大学がバーチャルユニバーシティを立ち上げたが、最近は淘汰が進み勝ち組と負け組がはっきりした。勝ち組の話によると、バーチャルユニバーシティはこれまでの大学と全く違った発想で構築、運営することが重要なようである。また、これまでの衛星やTV、ラジオを利用した通信教育との類似性が高いようでもある。学生のドロップアウト率はメンタが機能すると普通の大学と変わらないというデータが出ており、大学教育の一つの形態となり得ることが示されている。
 今後、アメリカの勝ち組のバーチャルユニバーシティが日本にも本格的に進出してくる可能性がある。そのとき、日本の大学は大丈夫なのか?日本語という語学の壁や教育に関する政府の規制などに守られるのではなく、対等に競争できる実力をつける必要がある。いや、それ以上に積極的に世界中から学生を集めるだけ魅力のある大学、特徴のある大学になっていかなければならない。

4. 京大における実践

 このような状況の中で、京都大学では学術情報メディアセンターと高等教育研究開発推進センターが中心になって実践を進めている。日本の大学は講義を中心とする教育環境が整っているので、完全なWBT型の教育の導入には違和感がある。E-Learningを独立な形で導入するよりも、現在行われている講義を補完、充実する形で実践できる形態の方が受け入れられやすい。
 そこで、情報技術の本来の利点を考えた上で、海外との遠隔講義プロジェクトTIDEと講義アーカイブを蓄積するプロジェクトを長期に亘って実践している。以下ではこれらの実践について簡単に説明する。

4.1 遠隔講義:TIDEプロジェクト

 1999年度より、京都大学、UCLA、 NTTの3者で,同期型遠隔講義に関する共同研究プロジェクトTIDE(Trans Pacific Interactive Distance Education)を実施している[5]。
4.1.1 講義の設計
 講義は、京大とUCLAが共通に学期がある期間に行っている。したがって、春学期は4月から6月上旬の10週間、秋学期は10月から12月上旬の10週間である。京大は遠隔講義終了後も4、5週間講義があるので、そこは京大の講師が単独で講義をする。
 時間は、日本時間の8時45分から10時15分までで、これがアメリカ西海岸の夏時間では、17時45分からの1時間半となる。秋学期ではアメリカの夏時間が終わるので講義の途中から時間が変わるという事態が生じるが、アメリカ側だけに問題をとどめている。
 講義は英語で行い、京大とUCLA双方に講師がいるという形態をとる。これによりそれぞれの大学が単独で学生に単位を付与できる。講義では、毎週宿題が出るが、この宿題をグループ単位で行うことにより、双方の学生の交流を深めている。そのために、WEBや電子メイルを積極的に利用している。
 講義のレベルは、京大の全学共通科目としている。これは、京大の学生であれば誰でも参加できるようにすること、英語の得意な学生を集めやすいこと、英語で講義ができる講師を集めやすいことなどを考慮しての決断である。このレベルでは、アメリカの大学の教育内容は日本の大学に比べて簡単であるが、日本の学生は英語というハンディキャップを背負っているので、講義においては双方が対等の立場にあると考えられる。
 海外との同期型遠隔講義が、どのような科目に適するかを調べるために、宇宙科学、文系向け物理学入門、アジアメディアシステム、ESL、日本の経済、生物学などの講義を実施してきた。学生数は、最大でも60人程度に制限し海外の学生とコミュニケーションをとりやすくしている。
4.1.2 利用している遠隔講義システムとその安定性
 構築したシステムの構成図を図2に、利用しているネットワークの接続図を図3に示す。システムは完璧に対称性を保っており、どちらに講義を行う講師がいても対処できる。
 映像の品質としては、一般TV放送とほぼ同じ程度の品質であるMPEG2を選択した。これは、学生がTVに慣れていることを考慮し、それ以下の画質では満足しないと考えたからである。この結果、必要なネットワーク帯域は4Mbpsとなった。ただし、MPEG2のCODECは、遅延時間を大きくすれば、帯域を落としても高品質の画像が伝送可能である。そこで、我々は衛星電話においても対話が成り立つことを考慮し、同程度の遅延、すなわち片道で500ms程度の遅延を許容設計目標とした。

図 2 遠隔講義システムのアーキテクチャ

       図 3 ネットワーク接続

 利用しているATMネットワークでは、日本からアメリカの接続点までは、QoSが保証されている。アメリカ国内はInternet2で広帯域ではあるがベストエフォート型のIPネットワークを利用している。このため、MPEG2のCODECはIPパケットを出力するIP CODECを利用する。CODECにおける符号化と復号化処理は、約250ms、日本からアメリカまでの伝送遅延が約250msで実質的な遅延時間は500ms程度に収まっている。
 映像の取得は、京大とUCLA双方に我々が開発した自動撮影システムを設置し、ほとんどの場合、自動で撮影している。ただし、特殊な状況には対応できないので、システムそのものには、手動でカメラを制御する機能が付加されており、必要に応じて人間が介入できる形になっている。
 音声は、講師がマイクをつけるだけでなく、質問する学生にマイクを回すことで取得している。この部分が、TIDEプロジェクトの最大の弱点であり、現在、自動取得に向けて研究を進めている。
 電子黒板や教材同期は、多少の不満があるが、既存のシステムで十分である。遠隔講義を意識した使いやすい教材提示システムの開発が望まれている。
 これまで、3年間にわたってTIDEを実施してきたが、実際に遠隔講義をサポートするスタッフは、通常状態で京大側に3名、UCLA側に2名の体制である。これらのスタッフは、講義が始まる前の準備、教材同期システムや電子黒板の立ち上げとテスト、WEBや電子メイルの設定などを行っている。講義が始まってしまえば、カメラ制御を補助するスタッフ(大学院生のTA)がそれぞれ1名、教室にいるだけで十分である。図4に遠隔講義の様子(UCLAから講義を行っている例)を示す。

      図 4 遠隔講義の実践

トラブルの一番の原因はネットワークである。特に、キャンパスネットワークは管理体制が十分でないので、突然、設定が変更されたり、学内のルータで故障が起こったりする。このために、ネットワークが接続できず、講義ができなかったことがこの3年間に数回起こっている。一度このようなトラブルが起きると、その原因究明は、日本アメリカ間のネットワーク全体を調べなければできないので、それ以後数回の講義に影響を与えることになる。これまでの経験では、トラブルの原因のほとんどが、京大かUCLAの学内ネットワークであった。
4.1.3 遠隔講義の評価
 TIDEの講義に対する学生の評価は、さまざまなアンケートのより明らかになっている[6,7]。それによると、遠隔講義システムそのものは、時間がたつにつれてトラブルがない限り意識されなくなってきており、学生が授業に集中できていることを示している.講義の評価は、講義をする講師に依存することが多く一概にはいえないが、おおむね良好な評価を得ている。
 学生は、アメリカの大学を知るいい機会になっていること、アメリカの友人が作れることなど講義以外の魅力も感じているようである。特に、京大の長尾総長の発案で講義終了後、相互訪問して交流を深めるという企画が実施されているので、その効果は絶大である。受講生の中から実際にアメリカに留学した学生が数名出ていることも、このプロジェクトの一つの成果であろう。
 講義科目に関しては、理科系よりも文化系の講義の方が興味深いことが判明している。これは、文化的議論の多い文化系の講義の方が異文化交流の利点が出るからである。特に、アジアメディアシステムの講義は、UCLAの講師がロサンジェルスタイムズの記者であったこともあり、ホットな話題に関して日米双方の学生が興味深い議論を展開した。
 英語が思うように話せないときに、京大側の受講生がとる態度は大きく2つに別れていた。一つ目のグループは、推測することで講義内容がわかるので、英語が多少分からなくても積極的に話していこうとするグループ、他方は、内容は推測できるので、英語を話さなくてもいいという引いた感じのグループである。当然、前者のグループの学生が講義を楽しめるし英語力も高まっていく。後者のグループの学生には、積極的な英語のサポートと発言を促す日本側講師の態度が重要になる。このことからも、やはり英語のハンディキャップは大きいことが実感できる。

4.2. 講義のアーカイブ

 自動撮影システムを設置した講義室で行われる授業はシステムさえ動かせば録画できる。そこで、講義アーカイブを取得する実証実験を3年前から行っている。講義アーカイブは遠隔講義と違って、実時間で送信する映像を選択する必要はない。また、複数のカメラで撮影するので、講義室の様々な要素を多様な視点、画角で撮影できる。取得した複数本の映像は講義終了後に必要ならば編集すればよい。このような観点から、自動撮影システムを講義アーカイブ用に設計しなおした[8]。遠隔講義用と異なる点は、(1)講師に位置センサをつけて講師の位置推定精度を上げ、撮影カメラが講師を大きくズームできるようにする、(2)生徒を複数のカメラで出来るだけ万遍なく撮影する、(3)講師は複数のカメラで撮影し続ける、(4)教材が変更された時点で教材の画像を取り込み映像と同期させる、などの点である。講義室の様子、作成したアーカイブをそれぞれ図5、図6に示す。2002年10月時点でのアーカイブ実験を行った科目を図7示す。
 講義のアーカイブ実証実験では講義の参加者に限定して取得した講義アーカイブを公開している。図6に示した講義アーカイブの画面では右側に表示されているスライドをクリックすることによりそのスライドを説明している映像が提示される。これにより映像を最初から見なくても、必要な部分だけを選択的に見ることが可能である。

    図 5 講義アーカイブ用講義室

 講義参加者による講義アーカイブシステムの評価をアンケートにより実施した。その結果、学生にとっては講義のアーカイブはそれほど活用されていないことが判明した。利用しない理由についての回答では、その場で理解出来ているのであとで見る必要はない、という意見が多かった。全体的には5%程度の学生しか見ていなかったが、見た人は1時間程度見続けていることがログから判明している。何らかの理由で講義に出られなかった学生にとっては講義アーカイブが有効であると考えられる。

    図 6 講義アーカイブ提示例

      図 7 講義アーカイブ実験

5. おわりに

本稿ではE-Learningに対する基本的な考え方について私見を述べた。E-Learningは海外では盛んに実践され、その利点も欠点も明らかになってきているのに対して、日本では企業での実務教育に導入されている程度である。大学レベルの教育が国際競争にさらされていくのは確実であり、その時の大きな武器がE-Learningであるということを考えると、早く実践して経験をつまなければ海外の大学との競争に太刀打ちできなくなる。日本語があるからとか、教育制度が違うからとか、文化が違うとかさまざま言い訳が出来るが、国際的人材を育てるということの重要性、教育の重要性を考えれば、国際的に認知される大学にならなければ優秀な学生が集まってこないのは明白である。日本の優秀な学生を海外の大学にとられないようにという消極的な目標ではなく、世界中から優秀な学生を集めるために何をしたらいいのかを真剣に考えるときではないかと思っている。本稿が何かの役に立てれば幸いである。

参考文献
[1] 先進学習基盤協議会:eLearning白書 2003/2004,オーム社,2003.
[2] バーチャルユニバーシティ研究フォーラム発起人:バーチャルユニバーシティ,アルク,2001.
[3] ウィリアムWリー,ダイアナLオーエンス:インストラクショナルデザイン入門,東京電機大学出版局,2003.
[4] Burks Oakley II:Building the Virtual University: A Blueprint for Success, Proceedings on Information Technology Based Higher Education and Training, 2001
[5] 八木 啓介,亀田 能成,中村 素典,渡辺 正子,美濃 導彦,TIDE:Trans-pacific Interactive Distance Educationプロジェクト, JDLA学術講演会, pp.13-14, 1999.
[6] 村上 正行,八木 啓介,角所 考,美濃 導彦,日米学習者による遠隔講義システムの評価,電子情報通信学会 技術研究報告, ET99-104, pp67-74, 2000.
[7] 村上 正行,八木 啓介,角所 考,美濃 導彦,受講経験・日米受講週間の影響に注目した遠隔講義システムの評価要因分析,電子情報通信学会論文誌,Vol.J84-D-I, No.9, pp-1421-1430, 2001.
[8] 西口 敏司,亀田 能成,角所 考,美濃 導彦:大学における実運用のための講義自動アーカイブシステムの開発,電子情報通信学会投稿中