外国語の文法学習にCALL授業は効果があるのか?  -直撃、Q&A-


岩根 久(言語文化部 フランス語教育講座 教授)
 

Q. 突然ですが、CALL授業について色々質問させてもらいます。
A. いやですねえ。CALLの専門家でもないし。
Q. 仕方ないでしょう、原稿を頼まれたんだから。
A. それはそうでした。
Q. さて、最初につまらない質問ですが、CALLというのは何ですか?
A. Computer Assisted Language Learning つまりコンピュータを用いた言語の学習のことです。コンピュータの性能向上で、音声や映像が扱えるようになったので、今後ますます注目されるでしょう。まあ、遠い未来のことはわかりませんが、とりあえず、ここしばらくは、ということです。
Q. 今、どんなCALL授業を担当しているのですか
A. サイバーメディアセンターのCALL教室を利用させていただいて、理学部1年生対象のフランス語120という授業と、文学部1年生対象のフランス語110の授業、あわせて週2コマです。
Q. まず、フランス語120では、どんな風に授業をしていますか?
A. フランス語120というのは、外国語の応用力を身につける授業です。1年生は、前期はCALLというよりもむしろ、サイバーメディアセンターのCALL教室の特性を生かし、教材のDVDを用いてフランス語を「聞き取って理解すること」に重点をおいています。最初からはちょっときついと思ったので前期は使用しませんでしたが、後期はTell me More というCALL教材も併用するつもりです。
Q. もうひとつのフランス語110は、どういう授業ですか?
A. 110は文法の授業です。CALL教室のホワイトボードで普通に文法の授業をして、時々私のWebページで文法事項の復習をさせています。
Q. ほとんどコンピュータを使っていないのなら、余りCALL授業というようには思えませんが。
A. まあ、そう言われれば身も蓋もありませんが、ずーっとコンピュータというのも面白くありませんからね。
Q. どうしてです?
A. 私がしゃべれないからです。
Q. あー、そういう理由ですか。なるほど。CALL教材の方が面白かったら、先生の話なんか聞きませんからね。先生の存在理由なんて無くなります。
A. いやいや、そういう訳でなく、私がしゃべれないから、と言ったのはちょっとした誇張で、従来の授業とCALLの手法を併用した方が学習に効果が上がると考えているからです。
Q. では、CALLの手法を併用して効果が上がったことは、どのようにして検証できるのでしょうか。検証できないのなら意味がないと思いますが。
A. それはこのQ&Aのテーマに関係するので、ゆっくりと説明しましょう。話をちょっと逸らすようですが、フランス語教育講座では文法習熟度を把握するために、毎年1月にフランス語共通テストというのを1年生対象に実施しています。これは、4択式の文法問題が50問の筆記テストです。このテストの結果を見てみても、CALL教室で授業を受けた学生の方が、通常教室で授業を受けた学生よりも成績が良いという結果は今まで出ていません。
Q. え、それはショックでしょう。
A. ショックというより別の感想を持っています。むしろ、安心したといってもいいでしょう。それは、文法の授業をCALL教室でするとかえって成績が下がるという印象を持っておられる先生がいらっしゃる中、私自身が授業を受けもった授業のうち、CALL教室と通常教室の授業ではそれほど差がなかったからです。
Q. 変な理屈のように思えますが。
A. いや、ここで言えるのは、CALL教室での授業がフランス語共通テストの結果に対してプラスの影響もマイナスの影響もないということです。たとえ他の良い効果があるとしても、文法力を低下させる要因になるとしたら、私はCALL教室の利用などやめてしまいます。
Q. 他の良い効果とはどんなものでしょうか。
A. ものすごく細かい話になりますが、私が用いている自作Webページhttp://cobalt.lang.osaka-u.ac.jp/~iwane/chiffres/frame.htmに「数字の練習」というのがあります。10×10の表に0から99までの数字が配置してあって、数字をクリックするとその発音が聞こえるようになっています。もちろん、文法の授業でフランス語の数字の仕組みは学習しますが、教師はそれぞれの数字を何度も発音している時間がありません。CALL教室だと学習者自身が自分が覚えにくい発音の数字を何度も聞くことができます。
Q. 確かに便利なようですが、学習効果は確認できますか。
A. 確認できます。同じページに「数字虎の穴」というのが用意してあって、これはランダムに聞こえてくるフランス語の数を数字で入力するというものです。正解率によって背景の色が変わるようになっていますので、ある一定時間後に教室端末配置画面のスクリーンショットをとれば、色の分布で教室全体の学習状況が把握できます。それよりも、学習者自身が自分の習熟度を知ることができるというのが重要なことです。
Q. 実際にはどのように授業で使うのですか?
A. まず、0から9までの数字を私が教えます。3分間Webページを使って自分で音を暗記するように指示します。0から9までの聞き取りテストをします。次に10から19までを教えます。これも同様に3分間で覚えるように指示します。0から19までの聞き取りテストをします。次に20から69までを教えます。同様に暗記するように指示し、聞き取りテストをします。次に70から99までを教えます。暗記を指示し、聞き取りテストをします。最後に「数字虎の穴」で習熟度を確認します。次回の授業で0からまでの聞き取りテストをすると予告します。
Q. その方法で通常のクラスよりも数字の聞き取りテストの成績は良いのですか。
A. ええ。これは明らかに差が出ます。通常のクラスでもWebページなしで同じ事を行い、次回の授業で0から99までの聞き取りテストをすると予告するし、自習できるように練習用のWebページも教えているのですが。
Q. なんとなく、差が出るのがわかるような気がします。
A. CALL教室と通常教室の根本的な違いは何かといいますと、学習者がその場で自分の習熟度を知ることができるかどうかです。通常教室だと教師の側がテストをするまで自分の習熟度を知ることが出来ません。学習者はWebページのテストで自分の習熟度を知り、練習をすることで習熟度が向上することを知ります。練習する、しないは学習者の意欲の問題ですが、学習者が自らの習熟度をコントロールできるか否かは学習意欲に影響を与えると考えます。それが、今の事例で差が出た要因だと考えます。
Q. 数字の聞き取りの他に効果をあげている事例はありますか?
A. 動詞の活用です。もちろん、コンピュータを利用しなくても動詞の活用を覚える方法はいくらでもありますし、電車の中、トイレの中、入浴中などに自覚的に行うのが一番です。ただ、それが身に付いたかどうか確認するにはパソコンは有用な手段だと思います。Webページにアクセスさえすれば、教師の助けなしに、習熟度がわかるのですから。私は動詞の活用の確認用に、http://www.lang.osaka-u.ac.jp/~iwane/katsuyo/index.htmlというページを用意しています。
Q. Webページならどこからでもアクセスできるのですから、CALL教室を利用する必然性があるのでしょうか。
A. 先程も言いましたように、通常の教室の学習者にもWebページでも練習するように強く勧めていまので、学習意欲の旺盛な学生はWebページで練習しています。ただその数はそれ程多くありません。CALL教室では授業中にすでにWebページで習熟度を確認できることを知っていますので、ちょっとやる気のある学習者は授業外でも自習して習熟度をアップさせているようです。もちろん、どちらのクラスにも次回こういうテストをすると予告していますが。
Q. どうして共通テストで差がでないのでしょうか?
A. 共通テストに聞き取りはありませんし、動詞の活用についても4択式の問題では差が出るというほどのことはないと思います。活用を書かせる問題なら差が出るかも知れませんが。
Q. 今後、CALLについてどういったことに取り組みますか。
A. すべての学習項目についてコンピュータで習熟度を把握できるわけではありませんが、できるものについては習熟度確認用のページを増やしていきたいと考えています。それにも増して、授業外で復習して(これは別にコンピュータを使わなくてもいいのですが)、習熟度をアップしようという意欲がわくような魅力的な授業がしたいですね。これはCALL授業と関係ありませんが。