CALLシステムを用いた留学生のための英語補講


池田 淑子 (留学生センター 英語補講講師)

はじめに

私が留学生のための英語補講をCALL教室で行わせて頂くようになって1年半が過ぎました。学部生のためのCALLを用いた英語授業のTAを同時に経験し、コンピューターを用いながらも人間性あふれるコミュニケーションを心がけ、かつ創意に富んだ教育メソッドを創り出してゆく先生方の努力の成果を享受するかたわら、留学生のニーズに対応できる英語補講を提供するのに悪戦苦闘の毎日を過ごしています。私が今CALL教室で行っている英語補講は実験段階のもので本当に未熟なものですが、成功談と失敗談をご紹介することを通じて、留学生ばかりでなく日本人の学生にも阪大においてその気になれば英語を学ぶ素晴らしいCALL教室という環境が整っているということを知っていただければ、またもしこれからCALLシステムを用いた授業を考えていらっしゃる先生方のご参考になれば望外の幸に存じます。

1 語彙の習得・強化→CDを使用し、英単語を「見る」「聞く」「話す」

 日本語を母国語としない留学生が日本人と共に学ぶ授業では、英語で読んだ文献を日本語で議論することが多いため、和訳のスキルは必須となります。したがって、留学生のための英語補講は和訳・読解中心の授業を行っています。留学生の和訳のスキルを向上させるための授業では、基本的には、英語→日本語という語彙の習得・強化と和訳が難解な英語で書かれた文章を翻訳する実践練習との2本立てで構成しています。
  短期間で多数の語彙習得を目指す場合には、レ ベルに応じて大学入試用の単語集、或はTOEFL対策用の単語集を使用し、CDに録音された音声を聞きながら単語集を見て実際に発声する。つまり、「目」、「耳」、「口」の三つの器官を同時に用いることによって暗記の作業を助けます。毎回100語程度暗記し、次回には前回の範囲のテストをスカイプロ・メニューを用いて学生機に配布・回収し、復習を促します。

2 和訳→新聞の電子版の活用とスカイプロ・メニューによる教材配布と回収

 和訳の素材は、できる限りオーセンティックなものでかつ学生の関心のあるものを選択しています。リアルタイムで世界のニュースにアクセスできる新聞の電子版を利用していますが、なかでも韓国の学生の場合、朝鮮日報は大いに活用しました。これは英語版・日本語版・朝鮮語版の三版があるので、大変便利です。授業では、文法が複雑で和訳の難しい文章を選択して用いますが、さらに授業後の自習にも十分活用できるように、出来るだけ三版に共通のトピックを選ぶようにしています。授業で和訳をし、解説の後日本語を確認し、さらに韓国語で再確認できるからです。
 また、日本の新聞の電子版やNHKのホームページの英語版も使用します。NHKのホームページの場合は、ビデオ映像やラジオ放送(英語・日本語・アラブ語・中国語・韓国語・ロシア語・スペイン語・タイ語・ベトナム語など22ヶ国語によるニュースが聞けます)を用いたニュースの報道もあるので、まずリスニングによってその素材を導入することが出来ます。
 準備の時間も考慮して、概して読解・和訳の素材を前日の電子版より選択し、ディスクに保存し、授業の当日に学生に配布します。学生は配布された文章を読み、その中で指定された文章をワードを用いて和訳します。学生が和訳の課題を終え、解説のファイルと共にマイ・ドキュメントに保存した後、学生の和訳をしたファイルを回収します。
 漢字を読むことはできるが完全に書くことが容易でない留学生にとって、ワードを使用して和訳することができると、物理的な時間をかなり短縮することができるので、効率的に和訳や説明自体に時間を費やすことができます。  また英語・日本語のレベルが様々な留学生に対して、課題のできた学生から順に回答を配布し説明できますので、進度に応じて個別に対応することが可能となります。授業中に課題の修了した学生は、アルクのTOEIC対応のリーディング教材の中で関連するものを選択しておき、活用してもらうようにしています。

3 統合的なアプローチ

 英語本来の面白さは英語でコミュニケートできる点にありますが、授業が和訳・読解中心になると、どうしても対人コミュニケーションに必須のリスニングとスピーキングのスキルが疎かになりがちです。したがって、和訳する素材は上述したビデオ映像やラジオ放送の付随した英語の電子版以外にビデオ映像が入手できるアメリカ大統領のスピーチやCDの付随したTOEFL教材のリーディング素材などを選択し、同時にリスニングのスキルも向上させるようにしています。まず最初に、これから和訳する文章を聞き、読解し、英問・英答した後、和訳をし、その後でもう一度、聞いてみます。リスニングのスキルに非常に有用なのは、ソフトテレコの機能です。使用したCDやビデオ(映像は保存できませんが)を共通教材として保存し、学生が後からいつでも自由な時間にもう一度その教材にアクセスして学習できますし、USBに保存して持ち帰り、自宅で復讐することも可能になります。
 下記では和訳・読解の合間に行う授業で試した他の技能に関する例を紹介します。

3.1 スピーキング

 キャラボのペア・レッスンを使用します。ヘッドホンを使用することによって他の音を遮断し、周りが少し気にならなくなります。また、席の離れた学生ともペアを組むことが出来るので、シャイな学生にはより有効であると言えるかもしれません。ダイアローグの表現を学んだ後、ロール・プレイを行います。

3.2 リスニング

 OEFLのリスニング問題を全員でテスト受験します。全員で行うので、本番に近い緊張感をもって行うことができます。ソフトテレコで登録しておくと、トランスクリプトを見ながら後でもう一度各自間違ったところを各自で確認できることが出来ます。

3.3 ライティング

 TOEFLのエッセーの模擬練習を行います。課題をスカイプロで学生機に配布し、本番と同様に30分で英作するように指示します。基本的には授業時間中に完成したものを提出するようにしていますが、最初のうちは授業の後もメールで受け付けるようにしました。
 次の授業では匿名で各自のエッセイを紹介し、ワードの修正コメント機能を用いて、適切な単語に置き換えたり、文章を校正する様子を画面に送り、実際に紹介します。校正したエッセイは、他の学生のオリジナル・修正版と一緒に学生全員に配布しますが、学生たちの課題をディスクで保存して持って帰ることができるので、修正・コメントの際にも新たな配布も大変容易に行うことができます。実際、エッセイは数回の説明と練習で、パラグラフ・ライティングは数回の間に劇的に上達しました。

 今後の課題

 単語習得に関しては、一度に多くの単語を覚えることができる学生もいれば、やはり「機械的に覚えるのには限界がある」という声も出ました。また、ニュースの素材だけでは大学院レベルの読解には不十分な点もあります。今後は、付随する著作権の問題とともに、オンライン教材、用例や文脈を盛り込んだCD付の単語集、そして読解・和訳の音声付の資料などの開拓、さらにCNNなどで行われるトーク番組やインタビューなどを利用したCALL教材の作成が課題となります。